『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
『ルシルサの奇跡』
「まー、セネリアがルシスに対して、取って代わってやろうと考えたのも無理はないかもね」
ルーセンが近くの大きな石に腰掛け、伸びをしながら言う。
「こんなさ、目と鼻の先に世界の終わりがあるような世界だよ、ルシスは。もっとまともな世界が良いって思っても、おかしくないよね」
側にあった小石を拾ったルーセンが、それを境界線の地面に向けて放り投げる。転がったそれは、ある地点まで行くとフッと消えてなくなった。
「僕がここを調べたいと思ったのは、地震の原因が、果てが拡大したことになる地盤沈下かと思ったからなんだ。けど、石が消えた距離から行くと、寧ろ若干塞がったかも?」
「えっ、果ては塞がることもあるんですか?」
美生が驚いた様子でルーセンに聞き返す。
この時点で彼女は、ルシスの果てとは地球で言うところの宇宙空間のようなものだと考えていたはず。世界の外側ではなく世界そのものの大きさが変化すると聞けば、驚くのも無理はない。
(私も初めてプレイしたときは、新しい世界観だなぁと思ったっけ)
ゲームをクリアしてしまえば、それもまた物語の重要な符号だということに気付く。そしてルーセンルートをクリアしたプレイヤーならさらに、ここを起点とするルーセンの一連の台詞を初回とは違った気持ちで聞くことになるのだ。――今の、私のように。
私は表情を繕える自信がなくて、ルーセンを直視しないよう彼とカサハとの間に視点を定めた。
「あ、やっぱりその反応だと、ミウはとても安定した世界から来たみたいだね。ルシスはあるんだよね、そういうこと。過去に何度かあって……有名なのは『ルシルサの奇跡』かな。王族が人為的に果てを塞いだんだ。ルシルサが遷都先に選ばれたのは、それが一番の理由になると思う」
ルーセンが座っていた石から立ち上がる。
「二百年くらい前かな。ルシルサはまだ王都じゃなくて砦だった。で、ルシルサよりさらに西にある土地の領主の軍と遣り合ってた。かの領主は突然独立を宣言して、他の土地への侵略を開始したんだ。当時の第二王子が率いる軍が侵攻を食い止めてたんだけど、そんな中、両軍を呑み込むルシスの果てが発生してしまった。あ、今僕たちの前にあるものもそうだけど、果ては別に世界の端から拡がるものじゃないんだ。人間だと酷い怪我が原因で、身体の一部が元の形から変わってしまうようなものかな。例えがちょっとアレだけど」
ルーセンは片腕を上げ、逆の手でスパッと上げた腕の方を切る真似をしてみせた。
「まー、とにかく間近にそんな危険なものが出来てしまった。勝敗がどうのと言ってる場合じゃない。そんな時に第二王子――レテが、果てを塞ぐ宣言をし、そしてその通りになった。王族の神秘の力を目の当たりにした敵方は戦意を喪失。めでたしめでたし」
「王族の力ってすごいですね……」
美生が「わぁ」と感心した様子で、片手を口に当てる。
ルーセンはそんな彼女に、「そうだね」と少しだけ苦い顔で微笑み返した。
ルーセンが近くの大きな石に腰掛け、伸びをしながら言う。
「こんなさ、目と鼻の先に世界の終わりがあるような世界だよ、ルシスは。もっとまともな世界が良いって思っても、おかしくないよね」
側にあった小石を拾ったルーセンが、それを境界線の地面に向けて放り投げる。転がったそれは、ある地点まで行くとフッと消えてなくなった。
「僕がここを調べたいと思ったのは、地震の原因が、果てが拡大したことになる地盤沈下かと思ったからなんだ。けど、石が消えた距離から行くと、寧ろ若干塞がったかも?」
「えっ、果ては塞がることもあるんですか?」
美生が驚いた様子でルーセンに聞き返す。
この時点で彼女は、ルシスの果てとは地球で言うところの宇宙空間のようなものだと考えていたはず。世界の外側ではなく世界そのものの大きさが変化すると聞けば、驚くのも無理はない。
(私も初めてプレイしたときは、新しい世界観だなぁと思ったっけ)
ゲームをクリアしてしまえば、それもまた物語の重要な符号だということに気付く。そしてルーセンルートをクリアしたプレイヤーならさらに、ここを起点とするルーセンの一連の台詞を初回とは違った気持ちで聞くことになるのだ。――今の、私のように。
私は表情を繕える自信がなくて、ルーセンを直視しないよう彼とカサハとの間に視点を定めた。
「あ、やっぱりその反応だと、ミウはとても安定した世界から来たみたいだね。ルシスはあるんだよね、そういうこと。過去に何度かあって……有名なのは『ルシルサの奇跡』かな。王族が人為的に果てを塞いだんだ。ルシルサが遷都先に選ばれたのは、それが一番の理由になると思う」
ルーセンが座っていた石から立ち上がる。
「二百年くらい前かな。ルシルサはまだ王都じゃなくて砦だった。で、ルシルサよりさらに西にある土地の領主の軍と遣り合ってた。かの領主は突然独立を宣言して、他の土地への侵略を開始したんだ。当時の第二王子が率いる軍が侵攻を食い止めてたんだけど、そんな中、両軍を呑み込むルシスの果てが発生してしまった。あ、今僕たちの前にあるものもそうだけど、果ては別に世界の端から拡がるものじゃないんだ。人間だと酷い怪我が原因で、身体の一部が元の形から変わってしまうようなものかな。例えがちょっとアレだけど」
ルーセンは片腕を上げ、逆の手でスパッと上げた腕の方を切る真似をしてみせた。
「まー、とにかく間近にそんな危険なものが出来てしまった。勝敗がどうのと言ってる場合じゃない。そんな時に第二王子――レテが、果てを塞ぐ宣言をし、そしてその通りになった。王族の神秘の力を目の当たりにした敵方は戦意を喪失。めでたしめでたし」
「王族の力ってすごいですね……」
美生が「わぁ」と感心した様子で、片手を口に当てる。
ルーセンはそんな彼女に、「そうだね」と少しだけ苦い顔で微笑み返した。