『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「この場合、すごいのはレテの根性かな。生き残るために必死になる人は大勢いるけどさ、死ぬために根性出すとかそうできない」

 やはり少しだけ苦い顔でそう続けたルーセンに、美生が「それってどういう?」と小首を傾げる。

「レテは果てを塞ぐために、自分のマナを自分の意思でルシスに流したんだ。でも通常は、生きている生物のマナをルシスは受け付けない。だから彼は部下に自分を剣で刺させた。ルシスに、自分はこの後死ぬから受け取れよってね。これだけでも壮烈なのに、さっき倒れたミウならわかるだろうけど、マナの総量がある程度減ると普通は意識が無くなるんだ。意識を保ったまま空になるまで――死ぬまでルシスにマナを流し続けるのは根性通り越して狂気かもね」
「――ルーセンさん」

 少し前から何か考え込む様子を見せていたナツメが、ここで彼の名を呼んだ。振り返ったルーセンに、ナツメが視線を向ける。

「その話は王家に伝わるものですか? 俺が読んだ書物には、第二王子レテが宣言とともに果てを消し去ったという記述のみで、彼が具体的にどうしたかまでは書かれていませんでした」
「え? じゃあルシスが死んだって誤報みたいに、これもまた伝わってるのは王都だけってこと?」

 ルーセンの返答に、ナツメは即座に「いえ」と首を振った。

「王都でも見たことがありません。俺はめぼしい書物は王立図書館のものも含め、各地のものを一通り目を通しています。ですが、ルーセンさんが話したような記述は無かったように思います」
「まさか! じゃあ何でセネリアは知ってたんだよ⁉」

 大きな声であったことよりもその不可解な台詞に、皆の視線がルーセンに集まる。それに気付いたルーセンは、気まずそうに目を逸らした。

「えーと……例によって僕はちょっと特異体質で。セネリアの記憶の一部を、ルシスを通して見たことがあるんだよね。今、ナツメが知らないと言った歴史に関してもそう。セネリアが境界線を作ったやり方も、消し方も、だから知ってた。異世界の人間を召喚する――ミウとアヤコを召喚したあの魔法を作ったのもセネリアだよ」
「セネリアがですか? しかし、何故彼女が」
「異世界から人間を召喚するっていっても、誰彼構わずというわけじゃなくて。最初に言ったけど、セネリアの波長と似ている人間を呼び込む魔法なんだ。多分セネリアは、自分がルシスを取り込んだ後で境界線をその人間に消させるつもりだったんだと思う。自分が神になってしまえば、ルシスを弱らせる境界線は必要ないからね。あ、ちなみにアヤコが呼べたのは、似てないけどセネリアのことを知り尽くしてたからだと思う」
「え? あー……そう、かもね?」

 未だ皆が初期配置でないことにやきもきしていた私は、ルーセンの補足に気もそぞろで返してしまった。

(言われてみれば、確かにあの召喚魔法の判定基準から行くと私も該当者になるわね)

 ルーセンが今言ったものではなく、()()()()()()()を思い出し、そう考える。
 次いで判定基準が判明する場面を私が回想し終わったところで――

「――禁書」

 ぽつりと、ナツメが呟いた。
 そして顎に手を当て思案顔をしていた彼は、スッとその手を下げた。

「一般常識以上の歴史が書かれているとしたら、禁書と呼ばれるものがそれにあたるんじゃないでしょうか?」
「禁書庫の入室には、王の許可が要るという話だ。セネリアは一般人だろう」
「確かにセネリアは一般人です。ですが……一致すると思いませんか?」

 カサハの疑問に、ナツメは北の方角を指差した。
 その指の先を、カサハを含めた皆が追う。

「ここに境界線を出す場合、一望できる場所は王立図書館周辺。セネリアが王立図書館へ寄った可能性は高いと思います」

 ナツメの言葉に、皆が件の建物と崖とを交互に見る。
 そんな中、皆が初期配置になったのを認めた私は、懐に入れてあるメモに手を掛けた。
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