『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~

二周目

 マナの光が王都を照らした一夜が明け、私たちは現在、王立図書館の廊下を歩いていた。
 昨夜の一件により、邸で居残り組だった私たちは境界線を見に行くことに。その後、王立図書館で当初の予定通り城へ行った美生たちと合流した形だ。
 昨日はルーセンがナツメの部屋に来た頃、街の異変に気付いた美生とカサハが二人で邸の外へと出ていたらしい。美生はナツメから教わった例の保護魔法を住人に施すために、カサハは彼女の護衛のために。
 マナが抜かれたと思われる人を広場に集めてもらい治療したところ、幸い重症な人はいなかったという。誰も起きて魔獣とは遭遇しなかったため、物理的な被害者もいなかったという話だった。

(ゲームでは二、三人を保護魔法で治療してる場面しかなかったけど、実際は大勢いたんだろうなあ)

 美生はカサハに横抱きにされ、眠った状態で帰ってきた。相当、疲れていたんだろう。――その姿を大勢の人に見られていて、今日彼女は城へ行く途中にからかい交じりの感謝を道行く人にされたはずだ。で、ふとカサハを見たときに彼がどこか嬉しそうにしていたことに、自分も嬉しくなったはずだ。
 私は前を歩く美生の後ろ姿を見ながら、こっそりカサハルートのイベントを思い返してほっこりした。

「昨夜のあれ、大事にならなくて良かったよね。まあ、広場も邸も、押し寄せた患者の応対でおおわらわだったけど。ミウの呼び掛けに集まってくれたあたり、ミウが聖女って記憶は無くなってなかったみたいで安心したよ。それ無くなってたら、今日城に行ったら不審者として捕まってたかもしれないし」
「脅かさないで下さいっ、ルーセンさん」

 美生がルーセンに抗議する。図書館内なので二人とも小声だ。
 ルーセンが彼女に少し意地悪い顔をして見せて、それから彼は「あ」と何かに気付いたように立ち止まった。

「ほんとにいた……。ちょ、アヤコ。予言者やばいでしょ」

 ルーセンが先程以上に声を潜めて話す。そのことで私は、私たちが目的地ならぬ目的人物に辿り着いたことを知った。
 ルーセンの視線を追えば、上質そうな黒いローブを纏った初老の男性が目に入る。

「じゃ、美生。手筈通りよろしくね」

 私はルーセンへの返事はひとまず置いておいて、目的人物――禁書庫の管理人に向かって、美生の背を押し出した。

「は、はい」

 美生が素直に返事をして、管理人のところへ小走りで向かって行く。その後をカサハが付いて行く。

「で、どういうカラクリなわけ?」

 ルーセンに詰め寄られ、私は目を泳がせながら頬をポリポリと掻いた。
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