『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「あー……うん、もう過ぎたことだから言ってもいいか。美生が城で管理人の邸までの地図を貰ってきたじゃない?」
私はちらと美生を見てから、またルーセンに目を戻した。
ゲームでも美生は、管理人の邸までの地図を貰うことになる。城で禁書庫の鍵について尋ねた際、管理人を訪ねるよう言われて。
そして正式な物語の流れは、皆と合流後にちゃんとその管理人の邸へ向かう。しかし、ここですんなり会えるのなら私も『二周目』というややこしいものを持ち出したりはしなかった。
「で、じゃあ邸に行こうって話になったわよね」
「うん。そこで何故かアヤコが「彼なら今、館内にいるかも」って言い出して、本当にいた」
語尾に「かも」が付いてしまったのは、ここでも『二周目』が使えるのか不明だったからだ。今、彼に実際に会えたことで通用することが判明した。
「ちなみに『並行世界』ってわかる?」
「聞いたことないかな」
「例えば、二叉の分かれ道があって、右を選んだとする。そしたら、『もし左を選んだらどうなっていただろう』って思うでしょ」
「思うね」
「その『もし』が並行世界で、私は右を選んだ場合も左を選んだ場合も、両方知ってる。だから、皆が選ばなかったというか選べなかった方を提示したのよ」
「邸に行くことを選んでいた場合は、どうなってたわけ?」
「邸に行ったら不在で、王立図書館に行きましたと言われる。王立図書館にトンボ返りしたら、今し方市場へ行きましたと言われる。市場に行ったら、宿に滞在中の友人に会いに行きましたと言われる。宿に行ったら、その友人と山菜採りに行きましたと言われる。山の中腹あたりで管理人に会えるものの、もう時間が遅いので明日図書館の前で待ち合わせましょうと言われる。こんな感じ」
「……僕は今日、いつも以上にアヤコを尊敬しました」
「ありがとう」
拝むルーセンに、私は苦笑いで返した。
この行き違いイベント中に、今回選ばなかった攻略対象のちょっといい話が見られる的な要素がある。が、次回という概念が無いここにいる美生には無用だろう。
であるなら二周目以降に現れる、ダイレクトに彼を捕まえるこの選択肢を使わない手はない。山の中腹まで下りたくなんてない。本当に、心から。
「禁書庫を開けて下さるそうです」
また小走りで戻ってきた美生が、花の笑顔で嬉しそうに言ってくる。
相変わらず可愛い。自分だったら聖女じゃなくても鍵を開けてしまうかもしれない。私は衝動のままに、美生の頭をなでなでした。
「禁書庫は、魔法で外部に声が漏れない仕様になっているそうだ」
「では報告など諸々の話はそちらでしましょう」
カサハの補足にナツメが答える。
その場で留まっていた管理人の元へ皆で行き、私たちは禁書庫へと向かった。
「退出後は自動的に鍵が掛かりますので、出る際は必ず全員揃って出るようにお願いいたします」
部屋の扉を開け、注意の後に管理人は帰っていった。
思わせぶりな台詞がある時点でゲーマーはピンと来るだろうが、禁書庫に閉じ込められるイベントはある。『立ち入り禁止』に立ち寄る羽目になるのと同類の、ゲームあるあるだ。ただそれはルーセンルートのイベントなので、今回は用が終われば普通に部屋を出ることになるだろう。
「意外と広いね」
我先に禁書庫に入室し中央まで進んだルーセンが、窓の無い一面書棚の室内を見回す。
その間にもナツメは、手近の書棚から本を手に取っていた。
「『魔獣』に関する資料が無いか、手分けをして探しましょう。――ああ、アヤコさんは、こういう根幹に触れる部分に参加するのは予言に差し支えそうなので、手伝いは不要です。手持ち無沙汰でしょうが、暫く待っていてもらえますか?」
「……うん、わかってる」
私はナツメに頷いた。何故そう言ったのか、「解って」いる、と。
(文字が読めないことを私が皆に隠したままだから、そう言ったのよね)
ナツメに貰った絵本は、合間を見て彼が直々に教えてくれたこともあり、読めるようにはなった。けれどそれがやっとで、こういった専門的なものは、まったくと言っていいほど読めない。
(禁書とか、すごく興味がそそられるのに。これについては聖女じゃないほうで残念だわ)
私は唯一書棚が置かれていない出入り口の扉に寄り掛かり、本を取り出しては仕舞う作業を繰り返す皆の様子を眺めた。
私はちらと美生を見てから、またルーセンに目を戻した。
ゲームでも美生は、管理人の邸までの地図を貰うことになる。城で禁書庫の鍵について尋ねた際、管理人を訪ねるよう言われて。
そして正式な物語の流れは、皆と合流後にちゃんとその管理人の邸へ向かう。しかし、ここですんなり会えるのなら私も『二周目』というややこしいものを持ち出したりはしなかった。
「で、じゃあ邸に行こうって話になったわよね」
「うん。そこで何故かアヤコが「彼なら今、館内にいるかも」って言い出して、本当にいた」
語尾に「かも」が付いてしまったのは、ここでも『二周目』が使えるのか不明だったからだ。今、彼に実際に会えたことで通用することが判明した。
「ちなみに『並行世界』ってわかる?」
「聞いたことないかな」
「例えば、二叉の分かれ道があって、右を選んだとする。そしたら、『もし左を選んだらどうなっていただろう』って思うでしょ」
「思うね」
「その『もし』が並行世界で、私は右を選んだ場合も左を選んだ場合も、両方知ってる。だから、皆が選ばなかったというか選べなかった方を提示したのよ」
「邸に行くことを選んでいた場合は、どうなってたわけ?」
「邸に行ったら不在で、王立図書館に行きましたと言われる。王立図書館にトンボ返りしたら、今し方市場へ行きましたと言われる。市場に行ったら、宿に滞在中の友人に会いに行きましたと言われる。宿に行ったら、その友人と山菜採りに行きましたと言われる。山の中腹あたりで管理人に会えるものの、もう時間が遅いので明日図書館の前で待ち合わせましょうと言われる。こんな感じ」
「……僕は今日、いつも以上にアヤコを尊敬しました」
「ありがとう」
拝むルーセンに、私は苦笑いで返した。
この行き違いイベント中に、今回選ばなかった攻略対象のちょっといい話が見られる的な要素がある。が、次回という概念が無いここにいる美生には無用だろう。
であるなら二周目以降に現れる、ダイレクトに彼を捕まえるこの選択肢を使わない手はない。山の中腹まで下りたくなんてない。本当に、心から。
「禁書庫を開けて下さるそうです」
また小走りで戻ってきた美生が、花の笑顔で嬉しそうに言ってくる。
相変わらず可愛い。自分だったら聖女じゃなくても鍵を開けてしまうかもしれない。私は衝動のままに、美生の頭をなでなでした。
「禁書庫は、魔法で外部に声が漏れない仕様になっているそうだ」
「では報告など諸々の話はそちらでしましょう」
カサハの補足にナツメが答える。
その場で留まっていた管理人の元へ皆で行き、私たちは禁書庫へと向かった。
「退出後は自動的に鍵が掛かりますので、出る際は必ず全員揃って出るようにお願いいたします」
部屋の扉を開け、注意の後に管理人は帰っていった。
思わせぶりな台詞がある時点でゲーマーはピンと来るだろうが、禁書庫に閉じ込められるイベントはある。『立ち入り禁止』に立ち寄る羽目になるのと同類の、ゲームあるあるだ。ただそれはルーセンルートのイベントなので、今回は用が終われば普通に部屋を出ることになるだろう。
「意外と広いね」
我先に禁書庫に入室し中央まで進んだルーセンが、窓の無い一面書棚の室内を見回す。
その間にもナツメは、手近の書棚から本を手に取っていた。
「『魔獣』に関する資料が無いか、手分けをして探しましょう。――ああ、アヤコさんは、こういう根幹に触れる部分に参加するのは予言に差し支えそうなので、手伝いは不要です。手持ち無沙汰でしょうが、暫く待っていてもらえますか?」
「……うん、わかってる」
私はナツメに頷いた。何故そう言ったのか、「解って」いる、と。
(文字が読めないことを私が皆に隠したままだから、そう言ったのよね)
ナツメに貰った絵本は、合間を見て彼が直々に教えてくれたこともあり、読めるようにはなった。けれどそれがやっとで、こういった専門的なものは、まったくと言っていいほど読めない。
(禁書とか、すごく興味がそそられるのに。これについては聖女じゃないほうで残念だわ)
私は唯一書棚が置かれていない出入り口の扉に寄り掛かり、本を取り出しては仕舞う作業を繰り返す皆の様子を眺めた。