『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「昨日、境界線の前でルーセンさんは、セネリアの魔法によって違和感のない景色を見せられていると言いました。俺もそのときは納得していたのですが、よくよく考えるとおかしな点があって」
「おかしな点?」
名前を出されたルーセンが、ナツメに聞き返す。
「王都の境界線に別の景色が映されている、それ自体は合っていると思います。ですが、写影の魔法は術者が任意の記憶を映すものです。俺が指示盤に利用しているように、他人の記憶を使うことはできます。しかしそれでも、初めに果てではない景色の記憶を持つ者は要るんです」
「あっ、そうか。セネリアの時代にはもう、ここは果てだったはずだから……」
「そうなんです。だから俺は、王都の境界線には写影の魔法は使われておらず、境界線そのものに過去を映す特性があると考えています」
「境界線が元々過去を映す? どういうこと?」
再び聞き返したルーセンを始め、皆が手を止めてナツメに注目した。
「境界線は精神の交流に鍵を掛け、『在る』と認識できないため無の空間に見える。これはおそらく半分は正解で、もう半分は間違いだったんです。例えばルーセンさん、この本を見て覚えて下さい」
ナツメが手近の本を一冊手に取り、ルーセンに見せるように持つ。
「うん、それで?」
ルーセンが先を促せば、ナツメは持っていた本を自分の背中の後ろへと隠した。
「俺が本を隠します。でもどんな本だったのか、直ぐさまわからなくはならないですよね。つまり、現在の認識を遮断しても、過去に見えていた頃の『こう在ったはず』という景色が人の記憶には存在するんです。無にはならない。王都の境界線には、果てが無かった時代の人間の記憶が反映されていると思われます」
「そんなただの人間の記憶で世界の形が……って、待って」
有り得ないと笑いかけたルーセンが、一転して神妙な顔つきになる。
「人間の『こう在ったはず』の『記憶』。魔獣が『記憶』を奪った翌日に塞がった『ルシスの果て』。……あれ? もしかすると、もしかしない? 果ては人間の記憶を元に、大地として再形成されている……?」
どこか焦った様子で言ったルーセンの声に、「あっ」という美生の声が重なった。
「私、『時間の概念があるのは人間だけ』という話を聞いたことがあります。他の動物は『現在』のみに生きていて、人間のように昔はどうだったとかこの先はこうなるのではといった、『過去』や『未来』に意識が行くことは無いそうです。人間だけが魔獣に襲われるのは、そのせいじゃないでしょうか?」
一息に美生が言う。そんな彼女をルーセンが青い顔で、ナツメは興味深げに見た。
「『在りし日のルシスの記憶を持つ』ために、人間だけが襲われるということですか。考えられない理由ではないですね」
「おい、魔獣らしき記述があったぞ」
ナツメが美生に頷くと同時に、一人資料探しを再開していたカサハが皆に声を掛けた。
三人がカサハの側に集まる。私も何とはなしに皆に倣って、一緒に彼が開いていた本の頁を覗き込んだ。
(やっぱり読めないか)
ルシスに残ろうと決めたなら、何らかのフラグが立って識字に目覚めるかも。そんな淡い期待もあったのだが……地道に頑張るしかなさそうだ。
私は心の中だけで溜息を吐いた。
「おかしな点?」
名前を出されたルーセンが、ナツメに聞き返す。
「王都の境界線に別の景色が映されている、それ自体は合っていると思います。ですが、写影の魔法は術者が任意の記憶を映すものです。俺が指示盤に利用しているように、他人の記憶を使うことはできます。しかしそれでも、初めに果てではない景色の記憶を持つ者は要るんです」
「あっ、そうか。セネリアの時代にはもう、ここは果てだったはずだから……」
「そうなんです。だから俺は、王都の境界線には写影の魔法は使われておらず、境界線そのものに過去を映す特性があると考えています」
「境界線が元々過去を映す? どういうこと?」
再び聞き返したルーセンを始め、皆が手を止めてナツメに注目した。
「境界線は精神の交流に鍵を掛け、『在る』と認識できないため無の空間に見える。これはおそらく半分は正解で、もう半分は間違いだったんです。例えばルーセンさん、この本を見て覚えて下さい」
ナツメが手近の本を一冊手に取り、ルーセンに見せるように持つ。
「うん、それで?」
ルーセンが先を促せば、ナツメは持っていた本を自分の背中の後ろへと隠した。
「俺が本を隠します。でもどんな本だったのか、直ぐさまわからなくはならないですよね。つまり、現在の認識を遮断しても、過去に見えていた頃の『こう在ったはず』という景色が人の記憶には存在するんです。無にはならない。王都の境界線には、果てが無かった時代の人間の記憶が反映されていると思われます」
「そんなただの人間の記憶で世界の形が……って、待って」
有り得ないと笑いかけたルーセンが、一転して神妙な顔つきになる。
「人間の『こう在ったはず』の『記憶』。魔獣が『記憶』を奪った翌日に塞がった『ルシスの果て』。……あれ? もしかすると、もしかしない? 果ては人間の記憶を元に、大地として再形成されている……?」
どこか焦った様子で言ったルーセンの声に、「あっ」という美生の声が重なった。
「私、『時間の概念があるのは人間だけ』という話を聞いたことがあります。他の動物は『現在』のみに生きていて、人間のように昔はどうだったとかこの先はこうなるのではといった、『過去』や『未来』に意識が行くことは無いそうです。人間だけが魔獣に襲われるのは、そのせいじゃないでしょうか?」
一息に美生が言う。そんな彼女をルーセンが青い顔で、ナツメは興味深げに見た。
「『在りし日のルシスの記憶を持つ』ために、人間だけが襲われるということですか。考えられない理由ではないですね」
「おい、魔獣らしき記述があったぞ」
ナツメが美生に頷くと同時に、一人資料探しを再開していたカサハが皆に声を掛けた。
三人がカサハの側に集まる。私も何とはなしに皆に倣って、一緒に彼が開いていた本の頁を覗き込んだ。
(やっぱり読めないか)
ルシスに残ろうと決めたなら、何らかのフラグが立って識字に目覚めるかも。そんな淡い期待もあったのだが……地道に頑張るしかなさそうだ。
私は心の中だけで溜息を吐いた。