『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「あの、ナツメさん。その場合、魔獣はルシスの自然治癒力ということになりませんか? 境界線を消しても良かったんでしょうか。勿論、魔獣の被害は放ってはおけないですけど」
ルーセンから美生に質問者が替わって、ナツメが彼女を見る。
私はそんな二人に一度だけ目を向けて、またルーセンへと注意を戻した。
「それについては、最終的には解決するという答になります。『ルシス再生計画』は、ルシスの安定、元より修復する必要の無い世界にすることが目的です。境界線という水門を開けることで一時的に水嵩が減りますが、そこへ充分な水を注ぎ足すイメージですね」
「あった!」
ナツメが美生に答えたと同時に、ルーセンが半ば叫ぶようにして手にしていた本を掲げた。
そんなルーセンに、私以外の面々も注目する。
「『レテの手記』。僕が見たセネリアの記憶で読んでいた本は、これだ!」
先程のカサハのときと同様集まって来た皆――今回は私を除く――に囲まれながら、ルーセンは赤い表紙の本を開いた。
「『ルシルサの奇跡』の第二王子――レテはマナを力業でルシスに流したわけだけど、手記によれば元々はルシスの神域でそれを行う予定だったみたいだ。ルシスの心臓部にあたる神域で流せば、ルシス自身が巡らせることができるから彼の考え方は合ってる。そしてこれを読んでいたセネリアは神域に入った……」
「――そのセネリアは、レテの遺志を継ぐ者と名乗った」
ナツメがルーセンの言葉を継ぐ。
「だがその場合、セネリアの境界線の乱立はどう見る。神域から大量のマナを流すのは、俺たちがやろうとしている『ルシス再生計画』と同じだ。同じであるなら、ルシスを遮断する境界線は再生の妨げにしかならない」
腕組みしたカサハが、腑に落ちないといった言葉つきで二人に問う。
そこへ反対に腑に落ちたという顔で美生が、「いえ!」と声を上げた。
「それこそきっと、さっきナツメさんが言ってた水門の考え方をしたんです。水が、マナがセネリアだけじゃ足りなかったから、セネリアはマナの行き場を絞ったんじゃないでしょうか⁉」
ルーセンが美生を見て、次いでカサハを見る。
「だとしたら、セネリアは――」
ゴーンゴーン……
ルーセンの呟きを掻き消すように、大きな鐘の音が鳴り響いた。
「まずい、閉館三十分前の鐘だ。セネリアは前の管理人の目の前で境界線を出したんでしょ? 館内で崖が一望できる場所ってどの辺り⁉」
「おそらく、ここと廊下の間にあった小部屋だろう。行くぞ」
「そこも管理人がいないと出入りできないところだし!」
カサハの推測に、ルーセンが慌てて本を元の書棚にしまう。
急いで全員が禁書庫から退室する。扉の近くにいたため一番に出た私は、ナツメに次いで出てきた美生に目を遣った。
(ここの彩生で、美生は……)
親密な距離でカサハと並んで立つ美生を見る。
玉を探すため小部屋を歩き回り始めた彼女を、私はずっと目が離せないでいた。
ルーセンから美生に質問者が替わって、ナツメが彼女を見る。
私はそんな二人に一度だけ目を向けて、またルーセンへと注意を戻した。
「それについては、最終的には解決するという答になります。『ルシス再生計画』は、ルシスの安定、元より修復する必要の無い世界にすることが目的です。境界線という水門を開けることで一時的に水嵩が減りますが、そこへ充分な水を注ぎ足すイメージですね」
「あった!」
ナツメが美生に答えたと同時に、ルーセンが半ば叫ぶようにして手にしていた本を掲げた。
そんなルーセンに、私以外の面々も注目する。
「『レテの手記』。僕が見たセネリアの記憶で読んでいた本は、これだ!」
先程のカサハのときと同様集まって来た皆――今回は私を除く――に囲まれながら、ルーセンは赤い表紙の本を開いた。
「『ルシルサの奇跡』の第二王子――レテはマナを力業でルシスに流したわけだけど、手記によれば元々はルシスの神域でそれを行う予定だったみたいだ。ルシスの心臓部にあたる神域で流せば、ルシス自身が巡らせることができるから彼の考え方は合ってる。そしてこれを読んでいたセネリアは神域に入った……」
「――そのセネリアは、レテの遺志を継ぐ者と名乗った」
ナツメがルーセンの言葉を継ぐ。
「だがその場合、セネリアの境界線の乱立はどう見る。神域から大量のマナを流すのは、俺たちがやろうとしている『ルシス再生計画』と同じだ。同じであるなら、ルシスを遮断する境界線は再生の妨げにしかならない」
腕組みしたカサハが、腑に落ちないといった言葉つきで二人に問う。
そこへ反対に腑に落ちたという顔で美生が、「いえ!」と声を上げた。
「それこそきっと、さっきナツメさんが言ってた水門の考え方をしたんです。水が、マナがセネリアだけじゃ足りなかったから、セネリアはマナの行き場を絞ったんじゃないでしょうか⁉」
ルーセンが美生を見て、次いでカサハを見る。
「だとしたら、セネリアは――」
ゴーンゴーン……
ルーセンの呟きを掻き消すように、大きな鐘の音が鳴り響いた。
「まずい、閉館三十分前の鐘だ。セネリアは前の管理人の目の前で境界線を出したんでしょ? 館内で崖が一望できる場所ってどの辺り⁉」
「おそらく、ここと廊下の間にあった小部屋だろう。行くぞ」
「そこも管理人がいないと出入りできないところだし!」
カサハの推測に、ルーセンが慌てて本を元の書棚にしまう。
急いで全員が禁書庫から退室する。扉の近くにいたため一番に出た私は、ナツメに次いで出てきた美生に目を遣った。
(ここの彩生で、美生は……)
親密な距離でカサハと並んで立つ美生を見る。
玉を探すため小部屋を歩き回り始めた彼女を、私はずっと目が離せないでいた。