『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「魔獣の行動は、ルシスのためなんですよね。だとしたら、私がここに来る神託を出したのもルシスなので、果てが塞がったのもルシスが望んだからなんでしょうか」
「あー……旧王都を壊滅させるくらいの神だから、やりかねないかもね」
「うーん……望むは望むけど、私はそっちじゃない気がしてます」
「そっち?」
聞き返してきたルーセンに、美生が「ほら」と人差し指を立てる。
「魔獣はルシスの自然治癒力なんです。人が怪我をしたらいつの間にか瘡蓋が出来ているように、ルシスも望んだとしたら『早く治らないかな』くらいの望みだと思います」
「へ?」
美生の答が余程予想外だったのか、ルーセンが間の抜けた声を出す。
「それは……また、人間くさい神というか、何というか。――うん、そうかもね」
それから彼は苦笑いして、次には少しだけ楽しそうに笑った。
「ところで、ミウ。大丈夫? これまでのパターンから行くと、この玉を還したらまたセネリアっぽい声が干渉してくる可能性高いけど」
「そう、ですね」
美生が玉があるらしき宙を見て、それからルーセンに向き直る。
「――はい、大丈夫です。もしかしたら、セネリアもルシスを助けたい一人なのかもなんですよね。私、もしまた聞こえたら、今度は怖がらずに耳を傾けてみようと思います」
「! ミウ」
カサハが美生の肩に手を置き、強張った顔で彼女を見下ろす。
その手に自分の手を重ねた美生が、カサハを見上げる。
「……カサハさん」
彼の名を呼び、そこから先は何も言わない。
暫くそうしていて、
「……わかった」
美生の揺るぎない意志を感じ取ったのか、カサハは彼女から手を離した。
「――行きます」
美生が玉を見据え、ゆっくりと手を伸ばす。
(美生……)
見ていられないという気持ちとは裏腹に、彼女のその手に私の目は釘付けになっていた。
「あっ!」
何かが弾ける音がする。それはこれまでの彩生と同じだった。
けれど今回はその後が違った。私を含め、誰も境界線には目を向けていなかった。
両耳に手を遣った美生が、覚束ない足取りで部屋の中を歩き回る。その様子を、私を含めた皆が固唾を呑んで見守った。
「『助けて』……? 誰を……助けるの?」
耳に当てていた手を下ろした美生が、焦点の合わない目で宙を見ながら呟く。
刹那――彼女の身体がぐらりと傾いた。
「ミウ!」
糸が切れた操り人形のよう重力のままに倒れた美生を、カサハがすんでの所で抱き留める。
「誰……を、誰……」
自身の状態に気付いていないのか、美生がカサハの腕に身を委ねたまま譫言のように『誰か』に問い続ける。
「ミウ? しっかりしろ!」
「ああ……そう、だった。助け……タスケテ、ワタシ……」
そしてその言葉を最後に、美生は意識を失った。
「あー……旧王都を壊滅させるくらいの神だから、やりかねないかもね」
「うーん……望むは望むけど、私はそっちじゃない気がしてます」
「そっち?」
聞き返してきたルーセンに、美生が「ほら」と人差し指を立てる。
「魔獣はルシスの自然治癒力なんです。人が怪我をしたらいつの間にか瘡蓋が出来ているように、ルシスも望んだとしたら『早く治らないかな』くらいの望みだと思います」
「へ?」
美生の答が余程予想外だったのか、ルーセンが間の抜けた声を出す。
「それは……また、人間くさい神というか、何というか。――うん、そうかもね」
それから彼は苦笑いして、次には少しだけ楽しそうに笑った。
「ところで、ミウ。大丈夫? これまでのパターンから行くと、この玉を還したらまたセネリアっぽい声が干渉してくる可能性高いけど」
「そう、ですね」
美生が玉があるらしき宙を見て、それからルーセンに向き直る。
「――はい、大丈夫です。もしかしたら、セネリアもルシスを助けたい一人なのかもなんですよね。私、もしまた聞こえたら、今度は怖がらずに耳を傾けてみようと思います」
「! ミウ」
カサハが美生の肩に手を置き、強張った顔で彼女を見下ろす。
その手に自分の手を重ねた美生が、カサハを見上げる。
「……カサハさん」
彼の名を呼び、そこから先は何も言わない。
暫くそうしていて、
「……わかった」
美生の揺るぎない意志を感じ取ったのか、カサハは彼女から手を離した。
「――行きます」
美生が玉を見据え、ゆっくりと手を伸ばす。
(美生……)
見ていられないという気持ちとは裏腹に、彼女のその手に私の目は釘付けになっていた。
「あっ!」
何かが弾ける音がする。それはこれまでの彩生と同じだった。
けれど今回はその後が違った。私を含め、誰も境界線には目を向けていなかった。
両耳に手を遣った美生が、覚束ない足取りで部屋の中を歩き回る。その様子を、私を含めた皆が固唾を呑んで見守った。
「『助けて』……? 誰を……助けるの?」
耳に当てていた手を下ろした美生が、焦点の合わない目で宙を見ながら呟く。
刹那――彼女の身体がぐらりと傾いた。
「ミウ!」
糸が切れた操り人形のよう重力のままに倒れた美生を、カサハがすんでの所で抱き留める。
「誰……を、誰……」
自身の状態に気付いていないのか、美生がカサハの腕に身を委ねたまま譫言のように『誰か』に問い続ける。
「ミウ? しっかりしろ!」
「ああ……そう、だった。助け……タスケテ、ワタシ……」
そしてその言葉を最後に、美生は意識を失った。