『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「ナツメ、その傷!」
ようやくナツメから解放された私は、そこで初めて彼の状態を知った。
最初に目に入ったのは、傷だらけの手。ハッとして彼の顔を改めて見れば、額や頬にも切り傷が多数ある。全身汚れた様子から、服で見えない箇所にもおそらく無数の傷があるだろう。
まさかこの崖を、無理に下りてきた?
「ああ、これですか。かすり傷です。戻りながら治しますよ」
「だからアヤコの目が覚める前に、治しておいたらって言ったのに」
「仕方ないでしょう。アヤコさんが気になって集中できなかったんですよ」
「アヤコ……やっぱり次があったら僕を身代わりにしていいから。いやほんと、遠慮無く」
ルーセンが何ともいえない表情で言い、その後「それじゃ、こっち」と誘導を始める。私がその後ろを付いていって、ナツメが私に続いた。
「今は止んでるけど、途中小雨が降ってたから足元気を付けて」
「わかったわ」
言われて足元を見れば、濡れた地面が目に入った。
もしやと思い、今度は先行するルーセンの背中を見る。彼の服も一部色が変わっているのが見えた。そう言えばナツメの髪も、少し濡れていたような気がする。
私は今度は、自分の服を簡単に確認してみた。
感触からいってそうではないかと思ったが、やはり私は濡れていない。二人が雨避けになってくれていたのかもしれない。
「ルーセンもありがとう」
「うん、どういたしまして」
何かに気付いた素振りから、私が礼に道案内とはまた別の意味も含めたことがわかったのだろう。それでいて軽い感じに返してくるのがまた、彼の良いところだ。
「あ、そうそう。カサハは上で野営の準備をしてる。ミウも上に残ってもらったよ」
岩場を登りながら、ルーセンがこの場にいない二人について話す。帰り道は彼が言った通り、私でも危なげなく登れるルートになっていた。
慎重に歩を進め、ようやく滑落前の道へと出る。
「彩子さん、良かった!」
「わわっ」
到着するや否や、私は美生に抱き着かれた。
ルーセンがルートを確保した際に一度戻ってきていたため、現れる場所がわかっていたのだろう。今日はよくハグされる日だ。
私は「ありがとう」と、涙目でぎゅうぎゅう抱き締めてくる美生の頭をなでなでした。
「もう少し行ったところに、カサハさんがテントを張っています」
「あ、もう日が落ちるんだ」
美生の台詞に空を見れば、まさに落ちようとしていた太陽が見えた。
今日はテントで一泊し、出発は明日の朝になる。奇しくも『足止め』は成功したようだ。――何てことをナツメに話したら火に油を注ぐことになるので、絶対に言わないでおこう。
そのナツメの様子を確認すれば、彼ももう登り切っていた。言葉通り道すがら自身を治療したようで、先程あった怪我はもう見られない。
「行きましょう、彩子さん。休まないと駄目ですよ」
美生が私の手を引いて歩き出す。
私はそんな彼女の手をちょっと引き寄せ、こちらを振り向かせた。私の意図がわかったらしい美生が微笑む。
私は大きめの一歩を踏み出した。そしてそこからは、美生と並んでテントへと向かった。
ようやくナツメから解放された私は、そこで初めて彼の状態を知った。
最初に目に入ったのは、傷だらけの手。ハッとして彼の顔を改めて見れば、額や頬にも切り傷が多数ある。全身汚れた様子から、服で見えない箇所にもおそらく無数の傷があるだろう。
まさかこの崖を、無理に下りてきた?
「ああ、これですか。かすり傷です。戻りながら治しますよ」
「だからアヤコの目が覚める前に、治しておいたらって言ったのに」
「仕方ないでしょう。アヤコさんが気になって集中できなかったんですよ」
「アヤコ……やっぱり次があったら僕を身代わりにしていいから。いやほんと、遠慮無く」
ルーセンが何ともいえない表情で言い、その後「それじゃ、こっち」と誘導を始める。私がその後ろを付いていって、ナツメが私に続いた。
「今は止んでるけど、途中小雨が降ってたから足元気を付けて」
「わかったわ」
言われて足元を見れば、濡れた地面が目に入った。
もしやと思い、今度は先行するルーセンの背中を見る。彼の服も一部色が変わっているのが見えた。そう言えばナツメの髪も、少し濡れていたような気がする。
私は今度は、自分の服を簡単に確認してみた。
感触からいってそうではないかと思ったが、やはり私は濡れていない。二人が雨避けになってくれていたのかもしれない。
「ルーセンもありがとう」
「うん、どういたしまして」
何かに気付いた素振りから、私が礼に道案内とはまた別の意味も含めたことがわかったのだろう。それでいて軽い感じに返してくるのがまた、彼の良いところだ。
「あ、そうそう。カサハは上で野営の準備をしてる。ミウも上に残ってもらったよ」
岩場を登りながら、ルーセンがこの場にいない二人について話す。帰り道は彼が言った通り、私でも危なげなく登れるルートになっていた。
慎重に歩を進め、ようやく滑落前の道へと出る。
「彩子さん、良かった!」
「わわっ」
到着するや否や、私は美生に抱き着かれた。
ルーセンがルートを確保した際に一度戻ってきていたため、現れる場所がわかっていたのだろう。今日はよくハグされる日だ。
私は「ありがとう」と、涙目でぎゅうぎゅう抱き締めてくる美生の頭をなでなでした。
「もう少し行ったところに、カサハさんがテントを張っています」
「あ、もう日が落ちるんだ」
美生の台詞に空を見れば、まさに落ちようとしていた太陽が見えた。
今日はテントで一泊し、出発は明日の朝になる。奇しくも『足止め』は成功したようだ。――何てことをナツメに話したら火に油を注ぐことになるので、絶対に言わないでおこう。
そのナツメの様子を確認すれば、彼ももう登り切っていた。言葉通り道すがら自身を治療したようで、先程あった怪我はもう見られない。
「行きましょう、彩子さん。休まないと駄目ですよ」
美生が私の手を引いて歩き出す。
私はそんな彼女の手をちょっと引き寄せ、こちらを振り向かせた。私の意図がわかったらしい美生が微笑む。
私は大きめの一歩を踏み出した。そしてそこからは、美生と並んでテントへと向かった。