『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~

在りし日の

 翌日。再びレテの村へ向けて出発した山の下り坂。私は目の当たりにした光景に、ドン引きした。

(うわぁ……)

 十数メートルに渡って人の大きさ程もある岩が、狭い道のあちらこちらに転がっている。ゲーム中でも落石がどうのという説明はあった気がするが、絵としての描写は無かった。よって、これほどの惨状とは思わなかった。
 これは洒落になっていない。例の『結果的に避けられた大きな被害』とは、ここでの落石事故と見て間違いないだろう。
 私は思わず身震いして、削れた山肌を見上げた。その目に、一人先行していたカサハの姿が映る。
 私は、昨日の今日なのでゆっくり歩いてこいと言われていた。それでどうやら私がここに来るまでの間に、彼は周辺調査まで済ませてしまっていたらしい。
 なかなか急斜面なはずが平地を歩くかのような身のこなしで、カサハは私たちが待っていた道へと降り立った。

「やはりつい最近の落石だな。今のところ新たに崩れそうな箇所は、見当たらなかった」
「問題は今ある岩が、僕たちが歩いた後ろから転がってこないかだよね」
「そうだな……」

 ルーセンに答えながら、カサハはその場で周りを見回した。

「あの辺なら捨てても構わないだろう」
「捨てるって?」
「ああ、俺が立っている位置から北東の、一段低くなった場所。あそこなら捨てても安全なはずだ」

 ルーセンに見当違いの返事をしながら、カサハが手近の岩に手を掛ける。
 そして彼は『安全』といった場所に、言葉通り岩を()()た。そう、持ち上げてポイッと。

「……カサハ、その岩、カサハよりでかいよね」
「まあ前方が見えにくいが、そう距離は無いから問題ない」

 やはり見当違いの返事をしながら、カサハは次々と岩を捨てていった。
 その様子をルーセンと美生が、目で追う。私もそのつもりがなくても見てしまう。ナツメもカサハに防御魔法を掛けた後は、同様だ。
 ちなみにルーセンは一度身丈の半分程の岩に挑戦したようだが、敢え無く玉砕していた。

「こんなものだろう」

 粗方処理し終わり、カサハがパンパンと手の汚れを払う。
 まさかこんな力技で通っていたとは……『彩生世界』の裏設定、恐るべし。

「やー……見事、スッキリと片付いたね」
「岩は人と違って暴れないからな。楽に運べる」
「その言い方、ものすごく誤解を招くから止めた方がいいと思う」

 ルーセンのツッコミに激しく同意。

「それにしても、僕たちが通るときに石が落ちてこなくて良かったよ。昨日一時的に雨が降ってたから、それのせいで転がってきたのもあるかもね」

 ルーセンが「また落ちてこない内に行こう」と、皆を促す。並ぶカサハと美生の後ろにルーセン、その後に私、ナツメの順で、私たちは山越えを再開した。
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