『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
歩き始めてから程なくして、私は後ろ頭に突き刺さる視線を感じ取った。
そっと振り返って出処を辿れば、案の定ナツメだ。私と目が合っても無言でこちらを見続けていた彼は、何かの数を数え始めたのか指を順に折り曲げて行った。
(あ、これは……バレたかも)
ナツメが何を数えていたのかピンと来て、素知らぬふりで前方に目を戻す。おそらく落石と昨日の滑落事故が、彼の中で繋がったのだ。数えていたのは、ことが起こってから経過した時間だろう。
(痛い、視線が痛い)
ビシバシ刺さる、先程より強力な何か言いたげなナツメのそれ。
(まあ実際、ナツメには悪いことしたし)
昨夜、野営のテントでのことを思い出す。
『俺は、助けてもらった礼は言いません。不可避だというのなら、せめて俺が礼を言える助け方をして下さい。お願いですから』
ナツメは結構些細なことでも礼を言ってくれる性格だ。そんな彼に「礼は言わない」と言わせてしまった。確かにそれは礼を言われるどころか、彼に心の晴れない行為をさせるという酷い仕打ちだろう。
(しかもそれを聞きながら、私は『ナツメは悲愴な顔も綺麗だ』なんて思ってしまってたし)
ついうっかり。悪気は無いのだけれど。このことはさすがに、墓場まで持って行く秘密にしておこう……。
「わざと落ちたんですか?」
「ひゃあっ」
昨夜に思いを馳せていたところ突然に話し掛けられ、私は跳び上がった。
やけに近くから声が聞こえたと思えば、それもそのはず。いつの間に来たのか、ナツメは私の直ぐ右隣にいた。
「わざとじゃないから。咄嗟のことでああなっただけだから」
こちらにピッタリ歩調を合わせてくるナツメに、必死で弁解する。これは嘘じゃない。策を考えているうちに、時間切れになっただけだ。
「本当に? 俺が掛けた身体能力を上げる魔法を利用したのでは?」
「違うって。本当に、咄嗟。昨日のあれは、二十パーセントの確率でしか起きない出来事だったから、直前まで気付けなかったのよ」
「え、何それ。アヤコの予言、そんな要素まであるの?」
ナツメの不機嫌なオーラを察してか、ルーセンが私の左隣からさり気なく話に加わってくれる。
「あるのよ。それに戦闘中以外は、影響が出る範囲も大雑把にしかわからないのよ。昨日の事故に関しては、単にナツメの足元の地面が崩れるって情報しかなくて。私がいた位置まで範囲だったことは、落ちたときに初めて知ったわ」
大雑把なことで助かる面もある。本編進行中以外は、今もそうだが自由に会話できることなんて特に、その功罪だろう。
「取り敢えずルーセンさんの位置は安全だから、俺をそちらへ突き飛ばしたわけですか」
「考えてる暇は無かったけど、頭の片隅にそれはあったかも」
「ナツメを足止めしたいだけなら、アヤコがナツメのほっぺたにチューでもすれば良かったんだよ」
「そんなの、御伽噺じゃあるまいし」
笑いながら冗談を言ってきたルーセンに、こちらも笑いながら返す。
と、そこへ右頬に突然何かが触れた感覚があり、私は驚いて足を止めた。
そっと振り返って出処を辿れば、案の定ナツメだ。私と目が合っても無言でこちらを見続けていた彼は、何かの数を数え始めたのか指を順に折り曲げて行った。
(あ、これは……バレたかも)
ナツメが何を数えていたのかピンと来て、素知らぬふりで前方に目を戻す。おそらく落石と昨日の滑落事故が、彼の中で繋がったのだ。数えていたのは、ことが起こってから経過した時間だろう。
(痛い、視線が痛い)
ビシバシ刺さる、先程より強力な何か言いたげなナツメのそれ。
(まあ実際、ナツメには悪いことしたし)
昨夜、野営のテントでのことを思い出す。
『俺は、助けてもらった礼は言いません。不可避だというのなら、せめて俺が礼を言える助け方をして下さい。お願いですから』
ナツメは結構些細なことでも礼を言ってくれる性格だ。そんな彼に「礼は言わない」と言わせてしまった。確かにそれは礼を言われるどころか、彼に心の晴れない行為をさせるという酷い仕打ちだろう。
(しかもそれを聞きながら、私は『ナツメは悲愴な顔も綺麗だ』なんて思ってしまってたし)
ついうっかり。悪気は無いのだけれど。このことはさすがに、墓場まで持って行く秘密にしておこう……。
「わざと落ちたんですか?」
「ひゃあっ」
昨夜に思いを馳せていたところ突然に話し掛けられ、私は跳び上がった。
やけに近くから声が聞こえたと思えば、それもそのはず。いつの間に来たのか、ナツメは私の直ぐ右隣にいた。
「わざとじゃないから。咄嗟のことでああなっただけだから」
こちらにピッタリ歩調を合わせてくるナツメに、必死で弁解する。これは嘘じゃない。策を考えているうちに、時間切れになっただけだ。
「本当に? 俺が掛けた身体能力を上げる魔法を利用したのでは?」
「違うって。本当に、咄嗟。昨日のあれは、二十パーセントの確率でしか起きない出来事だったから、直前まで気付けなかったのよ」
「え、何それ。アヤコの予言、そんな要素まであるの?」
ナツメの不機嫌なオーラを察してか、ルーセンが私の左隣からさり気なく話に加わってくれる。
「あるのよ。それに戦闘中以外は、影響が出る範囲も大雑把にしかわからないのよ。昨日の事故に関しては、単にナツメの足元の地面が崩れるって情報しかなくて。私がいた位置まで範囲だったことは、落ちたときに初めて知ったわ」
大雑把なことで助かる面もある。本編進行中以外は、今もそうだが自由に会話できることなんて特に、その功罪だろう。
「取り敢えずルーセンさんの位置は安全だから、俺をそちらへ突き飛ばしたわけですか」
「考えてる暇は無かったけど、頭の片隅にそれはあったかも」
「ナツメを足止めしたいだけなら、アヤコがナツメのほっぺたにチューでもすれば良かったんだよ」
「そんなの、御伽噺じゃあるまいし」
笑いながら冗談を言ってきたルーセンに、こちらも笑いながら返す。
と、そこへ右頬に突然何かが触れた感覚があり、私は驚いて足を止めた。