『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「ルシス。過去にレテのマナを取り込んで、あなたは少し楽になったはず。レテはそれに味を占めたあなたが、積極的に人間のマナを集めるだろうと考えていました。神域であなたがそれを望めば、直ちに世界中の魔獣があなたの声に反応する。まずはそうして自分を癒やし、それから王族へ『ルシス再生計画』の神託を出すと、彼はそう考えていました」
そこまで言って、セネリアが楽しそうにくすりと笑う。
その笑い方は、今は表に出ていない美生のものによく似ていた。
「それなのにあなたは、そうしなかった。それどころか、レテへの感謝とともに彼の死に続く真似は決してしないようにと神託さえ出した。そして私と出会ったあなたは、取り込んだ私の記憶を見るや否や神域を飛び出し、人間を襲うどころか救いに行ったのです。あなたは人よりお人好しですね、ルシス」
「――まさか、とんだエゴだよ。僕が死ぬことが一番困るのは明白なのに、付け焼き刃の救済で自己満足していたんだ、僕は。レテの姿を模したところで、欠陥品な僕が変われるはずなんてないのに、彼のように多くの人を救う自分を夢見たんだ」
ルーセンが自虐的な笑みを浮かべる。
そのことにセネリアは、「いいえ」と首を振ってみせた。
「夢ではありませんよ。間違いなく、あなたは私たちを救います。『ルシス再生計画』の要は、間違いなくあなたです。何故ならルシスを救う八色美生は、あなたが創った世界の住人だからです」
「僕が……創った?」
「ルシスが、ルシスの民の『こう在るはず』という心で再形成されるように、八色美生の世界は、あなたの『世界は本来こうあるべき』という心が生み出しました。安定し、マナが満ちた理想の世界です。私は神域でその世界が生まれていることを感じ取り、同化したあなたの意識を伝って、かの世界へと移りました」
「ミウの世界を……僕が」
「私が作り出した魔法にて召喚される異世界人は、『レテの村が滅んだ記憶を持つ』こと。私は私がルシスに戻るための仕掛けを作り、こうして帰ってきました。もう一つの『世界の記憶』という、あなたを満たすに充分なマナを内包して」
ナツメが二人の会話に注意を向ける中、私は少し前からカサハの様子を盗み見ていた。
僅かに、カサハの身体が後ろへとよろめく。「ではミウは」――彼の口の形だけがそう動く。
そう、美生はセネリアでもある。そしてそれが、ルシスを救うのが美生でなければいけない理由だ。――美生だけがこの世界で唯一『世界の記憶』を二つ持つ。美生のいた『地球』もまた、ルシスが創った世界であるから。
セネリアはルシスの外へ出て、世界がルシスだけでないこと知った。そのことで、『世界の記憶』という概念を得た。ルシスに生まれルシスに死ぬ多くの生物にとって、ルシスは『大地』であり『星』ではない。一匹の動物の背で一生を終える小さな虫は、きっと自分のいる場所が生きているとは思っていないだろう。ましてや、他に同じような動物が存在するとも思っていないだろう。セネリアでもある美生だけが、そうでないことを知り得た。
そこまで言って、セネリアが楽しそうにくすりと笑う。
その笑い方は、今は表に出ていない美生のものによく似ていた。
「それなのにあなたは、そうしなかった。それどころか、レテへの感謝とともに彼の死に続く真似は決してしないようにと神託さえ出した。そして私と出会ったあなたは、取り込んだ私の記憶を見るや否や神域を飛び出し、人間を襲うどころか救いに行ったのです。あなたは人よりお人好しですね、ルシス」
「――まさか、とんだエゴだよ。僕が死ぬことが一番困るのは明白なのに、付け焼き刃の救済で自己満足していたんだ、僕は。レテの姿を模したところで、欠陥品な僕が変われるはずなんてないのに、彼のように多くの人を救う自分を夢見たんだ」
ルーセンが自虐的な笑みを浮かべる。
そのことにセネリアは、「いいえ」と首を振ってみせた。
「夢ではありませんよ。間違いなく、あなたは私たちを救います。『ルシス再生計画』の要は、間違いなくあなたです。何故ならルシスを救う八色美生は、あなたが創った世界の住人だからです」
「僕が……創った?」
「ルシスが、ルシスの民の『こう在るはず』という心で再形成されるように、八色美生の世界は、あなたの『世界は本来こうあるべき』という心が生み出しました。安定し、マナが満ちた理想の世界です。私は神域でその世界が生まれていることを感じ取り、同化したあなたの意識を伝って、かの世界へと移りました」
「ミウの世界を……僕が」
「私が作り出した魔法にて召喚される異世界人は、『レテの村が滅んだ記憶を持つ』こと。私は私がルシスに戻るための仕掛けを作り、こうして帰ってきました。もう一つの『世界の記憶』という、あなたを満たすに充分なマナを内包して」
ナツメが二人の会話に注意を向ける中、私は少し前からカサハの様子を盗み見ていた。
僅かに、カサハの身体が後ろへとよろめく。「ではミウは」――彼の口の形だけがそう動く。
そう、美生はセネリアでもある。そしてそれが、ルシスを救うのが美生でなければいけない理由だ。――美生だけがこの世界で唯一『世界の記憶』を二つ持つ。美生のいた『地球』もまた、ルシスが創った世界であるから。
セネリアはルシスの外へ出て、世界がルシスだけでないこと知った。そのことで、『世界の記憶』という概念を得た。ルシスに生まれルシスに死ぬ多くの生物にとって、ルシスは『大地』であり『星』ではない。一匹の動物の背で一生を終える小さな虫は、きっと自分のいる場所が生きているとは思っていないだろう。ましてや、他に同じような動物が存在するとも思っていないだろう。セネリアでもある美生だけが、そうでないことを知り得た。