レンズのむこう
次第に自分の鼓動も、耳元でビュービュー騒ぐ風の音も、鳥の歌声も何も聴こえなくなって私はレンズのむこうに捕らわれる。





瞬きすら忘れて見入っていると自分はこのままあちら側にとりこまれてしまうんじゃないかと想像する。


別にそれでもいいんだけど。



バカなことを考えている間も空は表情をかえ続けていた。




まだ…まだなの…
まだ…早い…


じっくりと粘って、自分の心が震える一瞬を待つ。



時間の感覚なんてとうに消え失せていた。



青地に散りばめた白い魚がゆっくりと優雅に、もったいぶるように尻尾をついっと振った。



今がシャッターチャンス!


逃すわけにはいかず私はパシャリッとシャッターをきった。
< 9 / 55 >

この作品をシェア

pagetop