政略結婚だった二人
「ローエンのおかげで、私はやっと自分の足で立って、歩けるようになった気がしているのです」

 推しの笑顔を間近で浴びてしまったローエンは、うっと呻いて片手で胸を押さえた。
 ファンサはなおも続く。

「ローエンを選んだのは、兄や姉達ではありません。私が、自分で、ローエンの側にいたいと願ったのです」
「ア、アメリ……」
「ですから万が一、何らかの理由で彼らがこの結婚を撤回しようと思い立ったとしても──私は、絶対に従いません。ローエンと、離れたくありませんもの」
「……っ、アメリ! 俺もだ! 俺も、あなたと離れたくないっ……!」

 感極まった声を上げ、ローエンはアメリを掻き抱いた。
 円やかな頬に擦り寄り、その柔らかさと温かさを心ゆくまで堪能する。
 荒くれ者どもを震え上がらせる眼光も、魔族の令嬢達を虜にする美貌も、もはやふにゃふにゃに蕩けてしまっていた。
 しかし、見ているのはアメリだけで、彼女がそれを厭うはずもない。

 始まりは政略結婚だった二人だが──今は、正真正銘の両思いだった。

「ローエンに出会わせてくださった、兄や姉達に──そして、偉大なる魔王様に感謝します」
「ああ、俺も……」
「そんな魔王様が〝おじいちゃま〟と呼んでほしいとおっしゃるんですもの。これからも、そのように呼んでもかまいませんでしょう?」
「あ……うん」
 
 ローエンは、まんまと言い包められてしまった気がしないでもなかった。
 しかし彼は、野暮な議論を長々と続けるような無粋な男ではない。
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