政略結婚だった二人
「結局のところ、池の水は魔王様が抜いておしまいになったのか?」

 こめかみに唇を押し当てながらそう問うと、アメリはまた小さく首を横に振った。
 
「いいえ、おじいちゃまではなく、私が」
「……アメリが?」

 妻の満面の笑みを前に、ローエンは今度は少しばかり顔を引き攣らせる。
 魔界に嫁いだことで、アメリに関し、重大な事実が発覚していた。
 これまで、過保護な兄姉達が何もさせなかった──裏を返せば、アメリが何も期待されていなかったため気づかれなかったことだ。
 人間の姫でありながら、彼女には類稀なる魔術の才能があった。

「おじいちゃまに教えていただいて、えいっ、とやりましたのよ」
「うん……えいっ、とやったら、できちゃったかー……」

 全ての魔族の頂点たる魔王は、魔術の腕も最高峰である。
 ただし、呪文や術式ではなく感覚だけで魔術を使うため、人に教えるにはあまりに不向きだった。
 ところがアメリは、「えいっとする」とかいう、魔王の感覚的すぎる魔術をフィーリングのみで会得してしまった。
 その結果、彼女が初めて「えいっ」とやって山を一つ吹っ飛ばしたのが、結婚披露宴の最中のこと。
 魔王の余興を、何気なしに真似たのがきっかけだった。
 東の連峰が大きく抉れているのは、このせいだ。

「抜いた池の水は、東の山際にぶちまけておきましたわ。今日は朝からいいお天気でしたもの。きっとたくさんお洗濯物を干していらしたでしょうね」
「それはいい気味……いや、気の毒だな」

 アメリが悪戯っぽく言うのに、ローエンもニヤリと笑う。
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