政略結婚だった二人
「あら……」
床の上を、銀色のものがコロコロと転がっていく。
すかさず、ローエンが片手を伸ばしてそれを捕まえた。
「銀貨じゃないか。アメリが持っていたものか?」
「そういえば、スカートのポケットに入れたのをすっかり忘れておりましたわ」
銀色のコインの表には、今はプルプルのおじいちゃんな魔王の、若かりし頃の勇姿が刻まれている。
銀貨一枚は、魔王城一階職員食堂の日替わりランチなら二食分の値段に相当した。
「池にいた外来魚を厨房に持ち込みましたら、料理長さんがお駄賃をくださったんです」
「日替わりの白身魚フライはやはりそれだったんだな。この銀貨は、浮いた分の食材費から……」
「〝浮いた分の食材費で、今夜はたんまり酒が飲めるぜ、ひゃっはー〟とたいそうお喜びいただきましたわ」
「……うん、アメリ……それはな、着服というんだぞ」
ヒャッハーしている飲んだくれ料理長の顔を思い浮かべ、ローエンの眉間には深々と皺が刻まれる。
ただし、それも長くは続かなかった。
アメリがその皺を撫で、声を弾ませたからだ。
「私ね、お駄賃をいただいたのは、生まれて初めてなのです!」
「そ、そうか……」
「ねえ、ローエン。次の休日はいつですか? この銀貨で、ローエンにおいしいものをご馳走したいです!」
「うっ……尊い……っ!!」
ローエンは、目頭を押さえて天を仰いだ。
この翌日、魔王の副官が初めて有給休暇を取った。
ただし、二日酔いの料理長に始末書を書かせるのも、書類を提出しなかったガーゴイルを塔の先端にぶっ刺すのも忘れなかった。
床の上を、銀色のものがコロコロと転がっていく。
すかさず、ローエンが片手を伸ばしてそれを捕まえた。
「銀貨じゃないか。アメリが持っていたものか?」
「そういえば、スカートのポケットに入れたのをすっかり忘れておりましたわ」
銀色のコインの表には、今はプルプルのおじいちゃんな魔王の、若かりし頃の勇姿が刻まれている。
銀貨一枚は、魔王城一階職員食堂の日替わりランチなら二食分の値段に相当した。
「池にいた外来魚を厨房に持ち込みましたら、料理長さんがお駄賃をくださったんです」
「日替わりの白身魚フライはやはりそれだったんだな。この銀貨は、浮いた分の食材費から……」
「〝浮いた分の食材費で、今夜はたんまり酒が飲めるぜ、ひゃっはー〟とたいそうお喜びいただきましたわ」
「……うん、アメリ……それはな、着服というんだぞ」
ヒャッハーしている飲んだくれ料理長の顔を思い浮かべ、ローエンの眉間には深々と皺が刻まれる。
ただし、それも長くは続かなかった。
アメリがその皺を撫で、声を弾ませたからだ。
「私ね、お駄賃をいただいたのは、生まれて初めてなのです!」
「そ、そうか……」
「ねえ、ローエン。次の休日はいつですか? この銀貨で、ローエンにおいしいものをご馳走したいです!」
「うっ……尊い……っ!!」
ローエンは、目頭を押さえて天を仰いだ。
この翌日、魔王の副官が初めて有給休暇を取った。
ただし、二日酔いの料理長に始末書を書かせるのも、書類を提出しなかったガーゴイルを塔の先端にぶっ刺すのも忘れなかった。