政略結婚だった二人
「おかえりなさい、ローエン」
「ただいま戻った──姫」

 私室にもかかわらず律儀にノックをしたローエンを、彼とは対照的な雰囲気の娘が出迎えた。
 ふわふわのブロンドを揺らして、笑顔で駆け寄ってきた彼女は、姫は姫でも魔族の姫ではない。
 彼女は人間の姫──しかも、現在この魔王城に住まう唯一の人間であり、ローエンの妻だった。

「姫……いや、アメリ、座りなさい。話がある」
「はい、ローエン」

 ソファに腰を下ろして一息ついたローエンだが、すぐに顔を引き締めて姫を──アメリを呼びつける。
 彼自身は、本来なら一国の姫を娶るほどの出自ではないため、妻の名を呼び捨てにする時は少なからず躊躇した。
 そんな夫の気など知らないアメリ姫は、ととと、と近寄ってきて、言われた通りに座る。
 ローエンの、膝の上に。

(いや、そこかい)

 とは思ったが、ローエンは口には出さなかった。
 ただ、小さく呻いてから、それを誤魔化すみたいに咳払いをする。
 そして、殊更真面目な顔を作って続けた。
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