政略結婚だった二人
 アメリは、さる王国の末王女として生を受けた。
 超未熟児で生まれ、幼い頃はとにかく体が弱くて寝込んでばかりいたという。
 その行く末を案じた家族──殊更、歳の離れた兄王子や姉王女達は、この世で最も強い男に嫁がせたいと考えるようになる。

「北の神聖皇帝がいいんじゃないか?」
「いや、あいつは性癖が特殊過ぎるし、恨みを買いまくってるからすぐ死ぬ」
「西の島一帯を統べる大公は?」
「あいつは筋金入りのマザコンだから絶対無理。ママが死んだら死ぬ」
「なら、大陸中に名を轟かせる東国の剣士はどうだ?」
「だめだ、あいつは尋常じゃなく足が臭い。アメリの嗅覚が死ぬ」
 
 とか、なんとか。
 あいつもだめこいつもだめ、死ぬ死ぬ死ぬ、と家族会議を重ねる中……

「いや、何も人間にこだわる必要はないじゃないか! もっと強くて長生きをする魔族──その頂点にある魔王がいい!」

 などと言い出したのは、はたして誰だったのだろう。
 そもそも素面だったのかどうかさえも疑わしい。
 ただ、アメリの祖国にとって、魔界との関係を深めることは政治的にも大きな利点があった。
 近年勢力を広げつつある北の神聖帝国は唯一絶対の神を崇めており、魔王を頂点とする魔界とは、それこそ天地がひっくり返ろうとも相容れない。
 そして、たとえ性癖が歪んでいる神聖皇帝とて、人智を超えた存在である魔王と事を構えるつもりはないだろう。
 つまるところ、ローエンとアメリは政略結婚により夫婦となった。
 魔王は高齢な上、十年前に先立たれた妃を今もまだ深く愛しているため、その右腕かつ独り身だったローエンに御鉢が回ってきたのである。
 なおも難しい顔をしている彼に、たった一人で魔界に嫁がされた人間の姫は言う。
< 5 / 13 >

この作品をシェア

pagetop