政略結婚だった二人
「ちゃんと取り戻したこと……ローエンに、褒めていただきたいです」
「……っく、アメリッ!」

 おずおずといった様子で、アメリに上目遣いに見られた瞬間──ついに、ローエンは表情筋を引き締めるのを諦めた。 
 到底不可能だったのだ。
 彼女の前で、魔王の副官の仮面を着け続けることなど。
 自分の膝の上にちんまりと座った相手の体に両腕を回し、ローエンは堪りかねた風に叫んだ。

「アメリッ……かわいい! 俺が買ったピアスをあなたが大事にしてくれて、うれしいっ!」

 自他ともに認める仕事中毒だったのが、結婚したとたんに定時で仕事を切り上げるようになったという事実が物語っている。
 ローエンは、完全に心を奪われてしまっていた。
 一月前に夫婦となった、アメリ姫に。
 俗な言い方をすれば、彼は妻に沼ってしまったのだ。
 それはもう、ズブズブと。

「かわいい、かわいい……」

 顎をくすぐるふわふわのブロンドからは花のような香りがするし、腕の中に囲った体は小さくて柔らかい。
 何より、ローエンがようやく素の表情に戻ったのがうれしいのか、またニコニコして見つめてくるものだから……

「かわいすぎる」

 魔王の副官の沽券もかなぐり捨ててデレデレしてしまうのも、語彙力が心許なくなるのも、しかたがないことだった。
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