政略結婚だった二人
「ふふ……ローエンの方がかわいいです」
「うぐっ……」

 とどめとばかりに、華奢な両腕が背中に回ってきて、ローエンの胸の奥では心臓が大きく跳ねる。
 彼は、力一杯抱き締めたい衝動に駆られた。
 けれど、なけなしの理性が働いて踏みとどまる。
 ローエンは細心の注意を払い、そっと包み込むようにアメリを抱き返した。
 彼女が少しでも損なわれるのは、恐ろしくてならなかったのだ。

「できることならあなたを真綿で包んで、俺の懐にずっとしまっておきたい……」
「ローエンまで、お兄様やお姉様達みたいなことをおっしゃらないで」
「兄上や姉上方の気持ちが痛いほどわかる。姫が……アメリが大切だったんだ」
「存じておりますわ。もちろん、感謝もしておりましたけれど……」

 ローエンの腕の中で、アメリが幼子のように唇を尖らせる。
 兄王子や姉王女達はか弱い末妹を大切に思うあまり、自分達が認めたものしかその側に置かせなかった。
 食べ物も飲み物も、ドレスもアクセサリーも、私室の調度も侍女も……友達でさえ。
 本人の意思など確認せぬまま彼らが選んだそれらを、本心からは好きにはなれなかった、とアメリは言う。
 それを聞いたローエンは、思わず自嘲した。
< 8 / 13 >

この作品をシェア

pagetop