政略結婚だった二人
「……俺もまた、兄上や姉上方が決めた相手だな」
「ローエンは、違います」

 ぱっ、とアメリが顔を上げる。
 彼女はローエンの顔を両手で挟んで引き寄せると、お互いの鼻先がくっ付くくらいの距離で続けた。

「だって、ローエンは私に問うてくださいましたもの。初めてお会いしたあの時、本当に結婚相手が自分でいいのか、と」

 ローエンとアメリの初顔合わせは、結婚式の半年前だった。
 魔王自身ではなくその副官が縁談相手として遣わされたことに、兄王子や姉王女達は当初難色を示したが……

「私のことですのに、私に意見を求める者など誰もおりませんでしたわ。みんな、兄や姉達の顔色ばかりを窺っていたのです。でも──ローエンは、私と真正面から向き合ってくださいました」

 アメリはあの時、自らローエンの手を取った。
 押し付けがましい兄姉に対する反発もあったかもしれないが、それだけではなかった。

「ローエンは、私にもちゃんと意思があるのだと認めてくださいました。それまで、兄や姉達の主張に競り負けてしまっていた私の拙い言葉に、耳を傾けようとしてくださいました」

 それがとてもうれしかった、とアメリが震える声で呟く。
 泣いているのかと思ったローエンが慌てるも、杞憂だった。
 アメリは円やかな頬を色づかせて微笑むと、今度は弾むように言う。
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