遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 いつもは水筒に自分の好きなお茶を淹れてきている亜由美だが、今日は遅刻寸前だったこともあって、水筒を持ってこられなくて、やむなくフロアにある自販機へ向かった。

 その手前で、一条の声が聞こえたのだ。
「杉原女史、本当にうるせー」
 思わず自販機に向かう足が止まってしまった亜由美だ。

 自販機はフロアのパーテーションの奥にあるため、亜由美がいることに一条は気づいていないのだろう。思わず足が止まってしまった亜由美はそっと、物陰に隠れた。

 一条はもちろん亜由美がいるなんて思っていないからこその発言なのだろう。
 吐き捨てるような声に亜由美は胸が痛くなった。

 それは好かれているとは思っていなかったけれど、こんなふうに自分のことを聞くのはつらい。

「まだ、若いからな?」
 聞こえた声は一条の同期の営業部の社員だろう。

「マジかよ? 何年目?」
「二年目かな?」
「二年目じゃねーだろ、あの貫禄。十年目くらいかと思ったわ」

 馬鹿にしたように笑う声に少なからず亜由美は傷ついた。

 社会人二年目、二十四歳の亜由美だが、見た目は非常に大人びている。
 ロングの髪を緩く巻いて、すらりとした肢体と大人っぽい顔立ち。特に化粧するとさらに大人びてしまう。

 亜由美自身は恋愛経験もほとんどなく……というかほぼなくて、恋愛はコミックスや想像の世界でしか知らないのに、その大人びた外見のせいで百戦錬磨みたいに思われるのは心外なのだ。

(十年目ってアラサーじゃない!)
< 10 / 216 >

この作品をシェア

pagetop