遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 奥村が連れていってくれたのは、四季のお料理が楽しめるという隠れ家風の懐石のお店だった。
 前菜から始まり、お造りやすり流し、焼物など手の込んだ料理を楽しむ。

「この前、会社のロビーでお付き合いしてますってきっぱり言ってた彼氏さん、かっこよかったねぇ。鷹條さん、だっけ?」
「はい……」

 かっこいいのは事実だからそう言ってもらえるのは嬉しいけれど、あの時のことを思い出すと顔から火が出そうに恥ずかしい亜由美だ。

「私は大事にされてるなぁって、羨ましかったし、嬉しかった。杉原さんは私にも大事な後輩だもの」
「そう言って頂けると嬉しいです」

 すると奥村はくすっと笑った。
「あの時の覗き見メンバーの中には男性社員もいたからね。鷹條さんは余計にキッパリ言っておかないと、と思ったかもしれないね」
「そうなんでしょうか?」

「杉原さんのことぎゅーって抱き寄せちゃって、絶対誰にも渡さないって感じだったよ!」
「そ……そうでしょうか」

 ふわりと顔を赤くして、両手で頬を包むようにしている亜由美を奥村は微笑ましげに見ていた。

 亜由美は見た目が煌びやかで綺麗な顔立ちの持ち主だ。さらに丁寧に施されたお化粧やすらりとした姿も、澄ましていて声をかけづらいという印象を相手に与えがちかもしれない。

 けれど実際の亜由美はとても優しくて、周りによく気遣いのできる可愛らしい女性なのだ。むしろその見た目に反して、奥ゆかしすぎるところすらある。

 仕事にも真面目で、それは周りのみんなも認めているところだ。
 鷹條は亜由美のそんなところも充分に理解しているのではないかと奥村は察していた。
< 102 / 216 >

この作品をシェア

pagetop