遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「いつも……他人のことを助けてばかりいるんです」
 亜由美の柔らかい声に奥村は顔を上げる。鷹條のことだろう。

「私も助けてもらいました。駅で絡まれた変な人から助けてくれて、転んでしまった私を病院に連れて行ってくれて。で、一条さんに絡まれた時も……」

「はぁ!? ちょっと待って! 一条さんに絡まれてってどういうこと!?」
 亜由美の言葉に奥村が声を上げる。

 そういえば会社の人には言っていなかったかもしれない。あの日は鷹條に交際を申し込まれたので、それで頭がいっぱいになってしまって、亜由美は一条からされたことなど吹き飛んでしまっていたから。

「営業課から申し入れのあった日なんですけど、お昼に出たら一条さんに絡まれてしまったんです。俺の気を引きたいのかと言って」

 会社を出てから起こったことを亜由美は奥村に説明する。奥村は大きくはーっとため息をついて項垂れた。

「……ったく、あのバカ……。それも鷹條さんが助けてくれたの?」
「はい。たまたまお昼で上司の方と通りかかったんです」

 奥村はため息を止めることができなかった。

 今、穏やかに亜由美は話してくれているけれど、社内の然るべき部署に申し立てられてもおかしくはない事案なのだ。

 亜由美と鷹條に一条は救われた。
 そしてきっと当人達にはその自覚はない。第三者である奥村だから気付いたことだ。

「その鷹條さんの上司にまでうちの会社にアホがいると知られたわけね」

 底冷えしそうな声が奥村から聞こえてきた。


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