遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
11.水も滴る……
 助けられたのはまずかっただろうかと亜由美は戸惑う。ふっと奥村は亜由美に微笑んだ。

「まあ、杉原さんに何事もなくて良かったわ。そういうことがあったってことは、私も覚えておくから」

 あの時は結局課長も対応してくれたし、亜由美の中ではもう終わったことだったのだけれど、初めて聞く奥村は穏やかではなかったようだ。

「そんなに何度も助けられちゃったら……それは好きになっちゃうし、なんていうか運命的?」
 首を傾げて奥村は亜由美に尋ねた。

 運命的なんて言われて、嬉しさと恥ずかしさでどうしたらいいのか亜由美は分からなくなってしまった。気づくとなんだか顔が熱い。

「運命的……だったらいいなって思います」

 顔を赤くして照れてしまう亜由美を見た奥村は目の前のグラスを手に取ると、ごくごくーっと飲み干す。

「はーっ! ご馳走様っ! なーんか、お二人見てると恋愛っていいなぁって思うわ」
「そんなふうに言ってもらえると嬉しいです」

「杉原さんっ! いえ、亜由美ちゃんと呼んでもいい?」
「ぜひ!」

「亜由美ちゃんって、ツンって澄ました美人で気軽に声なんかかけられない雰囲気なんだけど、実際に話してみるととても素直で可愛らしいのよね。女子の私でもギャップ萌えするの」

 ツンと澄ましたとかそういう意識は亜由美にはない。
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