遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 驚きながらも嬉しいことは間違いない。つい微笑んでしまいそうな口元を抑えて、返事を送信する。

『今日はもう終わったの?』
『明日戻るから、今は帰る準備をしたところ。亜由美は帰り道?』
『電車だよ』
『では通話はできないな。残念』

 亜由美だって鷹條の声を聞きたかった。残念な気持ちは一緒だ。
 少し考えて続きを打ち込む。

『私も通話したかったな。声が聞きたかったから』
 自分で送っておいて、ドキドキしてしまった。大胆過ぎただろうか?
 しばらくして、メールが送り返されてきた。

『可愛いことを言われたら本当に声が聞きたくてたまらなくなる。けど声を聞いたら見たいとか触れたくなる気もする。明日の朝が早いから今日は休む。明日戻って報告書を作成したら定時に終わりそうなんだが、待ち合わせできる?』

 文言はとてもシンプルだけれど、素直な気持ちが書かれている。出張から帰って亜由美の顔を見たいと思ってくれることはとても嬉しい。

『もちろんです! 会うのを楽しみにしているね。おやすみなさい』
 そう文章を入力して、眠っているネコのスタンプも一緒に送る。
『おやすみ。気を付けて帰ってな』

 こんなささいなやり取りすら幸せな気持ちになって、心がほわりと温かくなるのが分かる。
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