遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「そんなに……転んだり、絡まれたりしないから」
「ま、それならいいけどな。亜由美がしっかりしてるのは分かっているけど」

 そう言って鷹條は亜由美の顔を覗き込む。整った顔を目の前に近づけられて亜由美はドキドキしてしまった。

「俺の前でしっかりしようとしなくていい。甘えていいんだ。それより俺は亜由美がどこかで無理していないほうがいい」
 そう言って鷹條は柔らかく微笑む。

 本当に優しくされていつも見守ってくれていて、亜由美は嬉しかった。こんな風にしてくれる人はいなかったから。

 好きな人は大事にする、と言った鷹條の言葉に嘘はなかったのだ。

 だからこそ、一瞬迷った。
(この前の手紙のこと、話した方がいいの?)

 けど鷹條に迷惑がかかるかもしれないと思うとどうにも口を開くことができない。
(あの後は何もなかったのだし)
 迷っているうちにマンションに着いてしまった。
 きっとタチの悪いイタズラだったのだと思うことにした。

 亜由美のマンションに到着すると、亜由美は早速エプロンを着け下ごしらえを始めた。鷹條は買ってきたものを冷蔵庫やストックに収納してくれている。

(これって、ちょっと新婚夫婦みたいかも……)
 そう思うと亜由美は少し気持ちが浮き立つ。

「千智さん、良かったらお風呂に入ってきてね。出来上がるにはまだ時間もかかるから」
 玉ねぎをフードプロセッサーに投入しながら亜由美は鷹條に声をかけた。

 それなのに鷹條は軽く腕まくりしてキッチンに入ってくる。
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