遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「手伝うよ」
「ではタネができたらお手伝いをお願いします」
「子供扱いか?」

 鷹條が拗ねたような表情を見せ、亜由美を後ろから抱きしめた。

 そんな風にされてしまうと亜由美は身動きできなくなってしまう。

「準備できない、よ?」
「本当のことを言え」

 この人に隠し事なんてできるわけがなかった。
「あの……千智さんは出張で疲れているかなって」
「まあ、そんなことだろうと思ったよ。俺も一人暮らし歴は長いから手伝える」

 正直に言った亜由美を鷹條は解放することにしたようだ。
 そこまで言われてしまったのだから、亜由美は素直に甘えることにした。

 あめ色の玉ねぎはたくさん作っておけば他の料理にも使える。亜由美はフードプロセッサーからみじん切りされた玉ねぎを出した。

「後ろのラックにガラスの器があるので、ラップしてレンチンしてもらっていいかしら?」
「了解」

 こうして二人でキッチンに立つことは初めてだったが、鷹條の気遣いは自然だった。
「次は?」
 と柔らかく亜由美に聞いてくれる。

「ああ、なるほど。レンチンは時短のためか。あとは弱火で炒めればいいか?」
 察しがいいのも手際がいいのも、亜由美にはとても心地良いことだった。

「亜由美、なんかこれすごく量が多くないか?」
 ボウルにできあがったハンバーグのタネの量を確認して、鷹條は首を傾げる。
 それは二人分をはるかに越える量だった。
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