遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「あ、そうなの。焼いて冷凍しておくとね、いつでも食べられるの。千智さん、良かったら持って帰らないかなって」
「え?」

(ん? 余計なお世話だったかしら?)

 大量に作ったハンバーグのタネを次から次に焼いてゆく亜由美だったのだが、それが自分のためだったと知って、鷹條は亜由美を抱きしめる。

「無理するなって言った」
「えー? 作り置きは無理じゃないでしょ?」
「どうしよう。すげー嬉しい。俺の彼女優しくて可愛くて、よく気がつき過ぎる」

 余計なお世話ではなかったと知って、亜由美は笑顔になった。

「大袈裟ね」
「本当のことだ。絶対持って帰る。大事に食べる」
「いくらでも作るから」

 一緒にキッチンに立って料理をして、一緒に食事をして、鷹條は片付けまで一緒にしてくれた。

「さて、あとは……風呂か?」
 鷹條の亜由美を見る視線にたっぷりと艶が含まれているような気がする。

「せっかくだから一緒に入るよな? 亜由美?」
「あの、もしかしてさっきお風呂に入らなかったのって……」

 亜由美は鷹條をじっと見返す。鷹條は顔色一つ変えずに、なんなら口元に笑みすら浮かべてしれっと返した。

「もちろんこのためだな」
「お手伝いしてくれたのかと思っていたのに」

「一緒にいたいんだって。そういうのは一石二鳥というんだろ」
 口調に甘さが含まれている。
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