遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 そう思うともう少しダイエットすれば良かったとか、こんな身体でいいんだろうかとかそういうことが気になってしまって身動きできない。

「タオルで隠して。恥ずかしいんだ?」
 分かってるくせに時々いじわるなのはどうしてだろう。

「おいで。そのままじゃ洗うこともできないだろう」
 手を取られて、そっとタオルを外される。外されると同時に視線を感じて亜由美は俯いてしまう。

「亜由美」
 甘く、優しく呼ぶ声がして、そっと顎を指先で掬われた。目線を合わせられる。

 端正な顔とその綺麗な顔を伝う水滴、髪も洗った後で髪からも水滴が滑り落ちてゆく。

 仕事が終わった時の鷹條はいつも髪をしっかりとセットされた状態で、業務が終わってからですら乱れていることない。
 オフの時もラフにはしているが、整えてはいる。

 こんなシャワーを浴びたての、まだ水滴すら肌に滴るような鷹條を見るのは初めてで、ドキドキするなんてものではない。
 大きく響く鼓動に身動きもできない。

「洗っていい?」
 そう聞かれて、こくっと亜由美は頷いた。

 ボディタオルを泡で満たして、亜由美の身体をとても大事そうに洗ってくれる。

 もちろん物心ついてからは誰かに身体を洗ってもらうなんてことはしたことがなく、とても恥ずかしい。なのに、鷹條はとても楽しそうなのだ。
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