遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 気をつかわなくていいと彼は言ってくれたが、亜由美は顔立ちが華やかなので、席でぼうっとしていると男性から声をかけられることも多い。

 それは意図せず女性の反感を買ってしまうし、真面目で人見知りな亜由美自身は声をかけられるよりも、身体を動かしていた方が楽なのだ。

 亜由美はその日、男性から『きっと声をかけても相手にはしてもらえないだろう』と遠巻きにされていたことを知らない。

 そんな中せっせと飲み物の注文をしたり、飲みかけのグラスを片付けたり、お皿に料理を取り分けたり、取り皿を取り替えたりしていたのだ。

 そんな中で気を使わなくていいと声をかけてきたのが彼だった。

「大丈夫です。誰かがやらないと」
 そう言って声を掛けてくれた彼ににこっと笑った。

 亜由美は自分の顔が必要以上に威圧感を与えるものだと思っている。

『笑顔は惜しみなく! よ。亜由美ちゃん、笑う人には福が来るのよ。本当よ!』

 そういつも言っていた母はいつもにこにこしていて、勤め先であった銀行でも人気者だったと聞いている。

 だから、母に言われたとおり亜由美はこういう場では意識して笑顔を作るようにしていた。

 本当は人見知りだから打ち上げのような会には出たくなかったというのが本音だけれども、この日は会社のイベントで総務部の代表として来ていたため、断ることができなかったのだ。



< 12 / 216 >

この作品をシェア

pagetop