遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「分かった。部屋に入ったら見せてくれるか?」
「うん」
 エレベーターの中、手紙を持っていない方の手で鷹條は亜由美を抱き寄せた。

 亜由美は寄り添ってぎゅっと鷹條の服を握る。
「大丈夫」
 力強い声で言って、鷹條はもう一度亜由美の肩を抱いてくれた。

 部屋に入ると鷹條はリビングに向かう。
「手紙を見ていいか?」
「ええ。もちろん」

 手紙を渡そうと亜由美はカウンターに向かい、状差しに手を伸ばすとその手を鷹條に掴まれる。

「触れないでくれ。そのまま待っていてくれるか?」
「はい」

 何が起こっているか分からないが、とんでもないことが起きているのかもしれない。今は鷹條の指示に従うしかない。

 亜由美はだんだん鼓動が大きくなるのを感じていた。指先が冷たくなって血の気が引いているような気がする。

 一旦寝室に戻った鷹條はハンカチを手にしていた。
「本当は手袋とかあるといいんだが、仕方ない。亜由美、触れないようにしてその封筒を教えてくれるか?」

 状差しの外から亜由美は封筒をそっと指さした。
「これだったわ」
「分かった」

 鷹條はハンカチで指先を保護して封筒を引っ張り出す。すでにはさみを入れ、開いている封筒になるべく触れないようにして、中身をダイニングテーブルの上に出した。

 写真を見て眉がすうっと寄るその少し険しい表情に亜由美は戸惑った。
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