遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 自分が怖い思いをしたはずなのに鷹條を思って謝り続ける亜由美に、鷹條はその震える身体を抱きしめて低くずっと言葉をかけ続けた。

 ぎゅっと抱かれている亜由美には見えていなかったけれど、亜由美を抱く鷹條は強く空を睨んでいた。それは見えない敵を睨みつけているかのようだった。

 亜由美が落ち着いた頃合いに鷹條は声をかける。
「亜由美、被害届を出したい。構わないか?」
「え……?」

 そこまでは少し大袈裟な気がしてちょっと怯んでしまう亜由美だ。
「でも……」

「うん。大袈裟かなって思うだろう。けど、それが出ているいないとでは今後の俺ができる対応の仕方も変わってくる。それと……やはりこういうことは第三者にも認知しておいてもらうことがとても大事なんだ」

 鷹條がそう言うのなら間違いはないのだろう。
 こくりと亜由美は頷いた。

 それを見て鷹條は安心する。
 被害にあっても実際に警察に届け出をする確率は非常に低い。やはりそこまでしなくても……という心理が働いてしまうことも間違いはないのだろう。

 事案によってはもっと早く連絡をしてくれればということもなくはない。
 けれど今回はそういう問題ではない。

 被害にあったのは鷹條が誰よりも大事に思っている、最愛の恋人なのだ。
 ──必ず護る。
 鷹條の瞳には強い決意がこもっていた。

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