遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
13.正常性バイアス
 亜由美が出かける支度をしている間、鷹條は何件か電話をかけているようだった。

(大袈裟じゃないかな?)

 そんな気持ちに何度もなるけれど、その度に鷹條が言うのだからと自分の考えを抑えるようにする。本当ならば最初から鷹條に相談するべきだったのだ。

 亜由美が相談しなかったことで鷹條に悲しい顔をさせてしまった。それは本意ではない。
 いうなれば鷹條はこの道のプロであり、鷹條に任せれば間違いはない。それに早く気づくべきだった。

 少し落ち込んだ気持ちになっていた亜由美に「行くか?」と声をかけた鷹條はポン、と頭を撫でる。
「気にするな。無理もないんだ」

 この人のこういう亜由美の気持ちにすぐに気づいてくれて、甘えさせてくれるところが本当に好きだなぁと思う。


 鷹條は所轄署というところに連れていってくれた。
 その受付で声をかける。
「生安の広見さんをお願いいたします。鷹條と申します」

 受付の担当者は繋いでもいいものか戸惑っている様子で、見かねたベテラン風の制服を着た男性が奥から声をかけてくる。

「どちら様?」
「お約束しております、鷹條と申します」

「どこの鷹條さん?」
 亜由美にもその対応は少し横柄な気がした。つんつんと鷹條の袖を引く。

「千智さん、もしもご迷惑なら私はいいから……」

 ふっと軽くため息をついた鷹條が髪を緩くかきあげ、奥の男性は無視して目の前の受付をしている人物に再度声をかける。
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