遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「すみませんでした。適当なことを言って庁舎内に入ろうとする輩もいるので、受付は慎重なんです」

 広見はそう言って亜由美に向かって微笑む。広見の少し色素の薄いふわりとした髪や綺麗な瞳につい釘付けになりそうだ。

 ぼうっとしてしまった亜由美にくすっと広見は笑った。
「あまり見つめないで。彼氏に嫉妬されそうだ」

 不躾なほど見つめてしまっていたことに気づいて、亜由美は慌てて頭を下げる。
「申し訳ありません。とても綺麗な方だったので……」

「ふふ。それはありがとう」
 言われ慣れているのかさらりと返された。

(千智さんが嫉妬? そんなことはあり得ないと思うけど)

 そう思ってちらっと鷹條の方を見ると少しだけ不機嫌な表情だ。戸惑ったけれど、ちょっとだけ嬉しくなってしまった亜由美だった。

 するとその亜由美に気づいた鷹條にきゅっと頬をつままれる。
「嬉しそうにするな」
「だって……」

「仲が良いのは分かったから、他でやってくれ」
 あきれたような声に、二人ですみませんと頭を俯かせた。

 会議室のような場所に二人は通された。広見は亜由美に名刺を手渡して柔らかい笑顔を向ける。

「杉原さん、まずは勇気を出してきてくださってありがとう」
 その一言で亜由美は一気に気持ちがふわりと解けたのが分かった。

「詳細をお伺いする前に現状についてお話ししてもいいかな?」
「はい」
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