遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 テーブルの上に手帳を置いて、広見は口を開いた。
「ストーカーの定義として恋愛その他の好意を持って付きまとい等の行為をすることを指す」

 そう言って、広見は亜由美にリーフレットを手渡す。警察が啓蒙活動のために発行しているものだ。

 亜由美はそれをそっと手に取った。
 ストーカー被害に遭われたみなさんへ、と書かれてある。見やすいようポップに色分けしてあった。

「後を尾けるということだけではなくて、こういった手紙を連続して送りつけてくることや、盗撮などの監視していると伝える行為も含まれる」

 改めて説明されてあの手紙をポストに入れられていたのが、ストーカー行為だったのだと知って亜由美は血の気が引く思いだった。

「正直、警察はこの手のことに関しては後手に回ってしまっていたので、今は専門チームの『人身安全対策課』というのを立ち上げているんだ。こういった所轄では生活安全課が対応している」

 亜由美の表情を見ながら、広見は優しく説明してくれる。
「被害者にどの程度危険が及んでいるかは、正直なところ我々でも判断しようがない。それがストーカー案件の難しいところでね」

 綺麗な瞳を伏せて、広見は憂いた顔をする。そして顔を上げると亜由美を真っすぐに見返した。

「ただ一つだけ言えることがある。ストーカーに限らず犯罪の芽というものはできる限り早めに潰してしまった方がいい」

 そのキッパリとした態度はそれまでの柔らかい雰囲気とは全く違って、この人はやはり警察官なんだと亜由美に思わせるようなものだった。

「できる限り早めに……」
 隣にいた鷹條はそれまで黙っていたけれど、口を開く。
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