遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
『好きな子は大事にする』と言った最初の言葉をずっと守り続けている鷹條は本当に信頼できる人だとしみじみ思う。

 端正な顔が近づいてきて、亜由美は唇にそっとキスされる。
 最初は軽かったキスはだんだん深くなっていって、お互いに求め合うように舌が絡んでいく。

「亜由美が広見さんに見惚れているからすごくヤキモチを妬いた」
「えー? それは気のせいだと思う。それはとても綺麗な人だなって思ったけど、それだけよ?」

「それだけでも、やだ」
 普段、やだなんて言葉遣いはしないからちょっと可愛くて亜由美は胸がきゅんとしてしまう。

「まあ……確かにあまり見ないほど麗しい人ではあったわね」
「男女どちらにもモテるんだ。あれでキャリアだからね。本当のエリートだよ」

 ちょっとだけ拗ねたような表情で鷹條はぎゅっと亜由美を抱きしめる。亜由美も鷹條の背中に腕を回した。
「モテても、私が大好きなのは千智さんです」

「素直で聞くべき意見はきちんと聞いて、可愛い彼女だ。あとは自分をもっと大事にしてほしい。奥ゆかしいところはいいところではあるけれど、遠慮ばかりするからそれが心配だ」

「少し反省しました。なるべく心配かけないように、報連相を徹底します」
「ぜひそうしてもらえるとありがたい。俺もこまめにこちらに来るようにするから」
「嬉しいです」

 素直に喜んで自分に身を任せる亜由美を抱きしめながら、その存在がどれほどに大きなものか、鷹條は感じていた。
 
 
< 133 / 216 >

この作品をシェア

pagetop