遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 久木が自分を信頼してくれて外泊について承認してくれていることは十分に分かっている。
 鷹條は今日から亜由美の家に外泊することになっていた。

 情報を管理する観点から警察官の同棲は基本的に認められてはいない。そんな中で連続した外泊を許可するというのはある意味超法規的な措置でもあった。

「聞き取りをしてくださったのが広見警部だったのも良かったかもしれません」
「そうですねぇ……とても穏やかな方でなおかつ真面目です。本当に警察組織を今後どうしていくべきか真剣に考えている方です」

 久木は硬い顔をして腕を組んだ。
「彼はキャリアなのでいずれ本庁に帰る。その時に現場のことを知っておいてほしいんです」

 亜由美の件を所轄署で対応してくれた広見は、キャリアと呼ばれる国家公務員試験に合格して入庁している幹部候補生だったのだ。

「鷹條くんだからお話しますけど、広見さんは妹さんがストーカー被害に遭われたことがあるそうです」
「だからストーカー被害について詳しかったんですね」

「ええ。警察は被害届を受け入れて捜査も開始した。けど妹さんは若かったこともあって、被害にあっていたことが学校でも広まってしまい、あらぬ誹謗中傷にも晒されたようです」

 犯罪被害者が誹謗中傷に晒されるなど、本来はあってはいけないことなのだが、昨今のSNSの普及などもあり、自分に向けられた情報を全て遮断することは難しいのが現状なのだ。

 もはやそれは二次被害なのではないかと鷹條も思う。

「若いゆえ、周りに助けを求めることもできなかったんでしょうね。学校を辞めてしまって、一時期は自宅から外出することもできなかったとか。その後、広見さんは警察官僚を目指したそうですから」
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