遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「あはは~、本当に真面目だ!」
 初めての人と会話することがあまり得意ではない亜由美にも彼の話し方はなぜかとても自然で、すんなりと言葉を交わすことができた。

 この人なら笑わないかも。そう思って亜由美は小さな声で言った。

「可愛いものが好きなんです」
「ああ、女の子はみんな好きだよね。じゃあさ、こういうの好きかな?」

 そう言って見せてくれたスマートフォンの写真はふわりとしたパンケーキにフルーツが飾られていてそれにホイップが載せられたものだったのだ。

「か、可愛いっ!」
「でしょ? 甘いもの結構好きなんだけどさ、一人では行きづらいし。よかったら今度行かない?」
 
 その場の自然な流れでメールアプリのIDを交換して、彼とのやり取りが始まった。
 飲み会の自然な流れで始まった交際。

 会社の帰りに何度か食事を一緒にするということを重ねて、休日に例のパンケーキの店へ行くことになった時のことだった。
 列になっているその様子を見た彼がイライラし始めたのだ。

「予約ができないとかおかしいよな。並ばせて売り上げようって魂胆が丸見えなんだよ」

 亜由美はその店が並ばなくては食べられないことを知っていたし、彼も写真を持っていたから行ったことがあって、当然知っているものと思っていたのだ。

「ここ、並びますよね? 行ったことがあるのかなって思ってた」
「予約できないって知ってたら行かないよ。写真は……知り合いから送ってもらったものなんだ」

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