遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 犯人はこんな風に買い物をしている亜由美のことを写真に撮っていた。捜査を進めてもらっているとはいっても、まだ捕まったわけではない。
 こうしている時も、どこかで見ているのかもしれない。

 そう思うと、ぞっとした。
 ──怖い……。

 一人で歩いて帰ることなんてできない。写真に撮られるのも気分が悪いが、もしもそれがエスカレートしたら? なにか危害を加えられるようなことをされたら?

 今までそういうことに思い至らなかった自分はなんて甘かったんだろう。

 それは鷹條にあんな悲しい顔をさせてしまう訳だと自覚した。

「亜由美!」
 スパイスの棚の前でつい足を止めてしまっていた亜由美に鷹條が早足で寄ってくる。

「千智さん」
 安心したように鷹條は軽く亜由美を抱き寄せた。亜由美もきゅっと抱きつく。

「ん? 大丈夫か? なにかあった?」
 腕の中でふるふるっと首を横に振る。
「急に……怖くなっちゃって」

「当然だ。買い物も一緒に行ける時に行こう。一人では怖いだろう。無理しなくていい。あー、俺の食事のことも無理しなくていいからな? なんなら俺は俺で適当にやるし」

「私の手料理はいらない?」
「ほしいけど、無理はしなくていいってこと。あと、俺の腕前もたまには披露させてくれ」

 そう言って笑った鷹條は買い物カゴにカレールーを入れる。
「オトコの手料理と言えばカレーだろう」
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