遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 亜由美の気が晴れるように明るくふるまってくれる鷹條が大好きだ。
「お肉は牛ですか? チキン?」
「え? 豚じゃないのか?」
「お任せします!」

 今度は二人でもう一度買い物をして、いつもより多めに買った食材は鷹條も持ってくれた。会計をして二人で歩いてマンションに向かう。

 その途中でゆっくりと住宅街を走るパトカーとすれ違った。

「念のためにパトロールを強化してもらってる。いつまでも続けられるわけではないんだが、犯人は動きにくくなるはずだ」

「ありがとう。今日、奥村さんにもお話したの。駅まで一緒に帰ることになりました」
「うん。奥村さんは亜由美のことを本当に大事にしてくれているな。いい人だ」

「今度、もっとちゃんとお礼しなくちゃね。あ、そういえば、千智さんの上司の方にも」
 鷹條は苦笑していた。

「なに?」
「お礼はいらない。公務員なら当然だと返したことがあったな」

 最初の頃の話だ。その頃と二人の関係はだいぶ変わった。そう思うと妙に気恥ずかしい。

「あった、ね」
「本当は受けてしまいたかった」

「私もです。受けてほしかった。けど、なんとなく千智さんは受けないだろうなって分かってた。だから……大事にしていいかって言われたとき、すごく嬉しかったな」

 鷹條がぎゅっと亜由美の手を握る。
「早く帰ろう」


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