遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 引っかくようにされて、先端がつんと尖るのが分かる。尖ったところをきゅっとつままれた。

「……んっ……」
「しー、ここ玄関。大きな声を出したら外に聞こえる」

「あ、で……も」
「ん?」

 服をするっと持ち上げられて、玄関先で素肌が空気に触れるのに背徳感を感じて、恥ずかしさに拍車がかかる。

「声、出そう?」
 そう鷹條に聞かれて亜由美は顔を赤くしてこくこくと頷いた。
「じゃあ、服咥えてて」

 少し強引な鷹條には胸がどきどきしてしまう。
 いつもは過剰なくらいに甘くて優しいから、ちょっと強引でいじわるなのは普段見られない姿で、きっと亜由美にしか見せない。

 口元に服の裾を持ってこられて、亜由美はぱくんとそれを咥えた。

 頬を指の背で撫でられる。
「嫌なら嫌って言えよ?」
 こくっと亜由美は頷く。

 亜由美に服の裾を咥えさせるような強引なことをしておいて、鷹條は亜由美の足元に膝まづいた。

 胸元に端正な顔の綺麗な唇が近づく。
 ──な、舐められちゃうっ……。

 軽く息がかかっただけでもその先を予想してしまって、ぴくんっと身体が揺れる。

 それに気づいて亜由美はさらに顔が熱くなり、鼓動が大きくなる。鷹條にまで聞こえてしまうのではないかと思うと、さらに止めることなんてできるわけがなかった。
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