遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「私もそう思ったんだけど、久木さんのイメージを上手く伝えられなくて」
「久木さんも元カノと別れて大分経つからなぁ。興味があれば一緒に食事とか行ってもいいかもな?」

 余計なことをするつもりはないが、もしも二人の気が合えば亜由美も嬉しい。
「奥村さんに聞いてみるね。喜びそうだわ」

 程なくして鷹條がローリエを取り出し、アクを取っているのが見えた。

「すごくきちんとしているわ」
「適当だぞ」

 亜由美に向かって笑った鷹條はカレールーを入れて鍋の中身をかき回している。

 部屋の中にスパイシーな香りが漂ってきていた。
「お腹空いたぁ」
「あとちょっとだ」

 しばらくしてキッチンにいる鷹條が亜由美を呼ぶ。
「ん?」
「味見して」

 小皿にカレーが少しだけ載せられていて、近寄っていった亜由美の口元に鷹條がカレーを一口流し込む。

 そんなようすまでじっと見るから、亜由美は飲み込むだけのことにとても緊張してしまった。

「美味しい!」
「こんなもんか」
 テーブルをセットして二人でいただきますと言って食べる。

 一緒に食べるカレーは幸せの味がしたような気がする。


 週の半分くらいは鷹條と帰ることにしているが、鷹條にもシフトや残業がある。

 半同棲のような生活を続けて1ヶ月近くが経とうとしていた。お互いに相手が部屋にいることにも慣れてきた頃だ。

「亜由美……」
 帰り道、駅からマンションに向かう途中で声をかけられ亜由美は顔を上げる。
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