遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 亜由美のスマートフォンを手にした彼が電源を落としているのが見えた。

 彼がひどく神経質になっているのをピリピリとした雰囲気から感じる。

 マンションの近くにある公園に二人で向かうことになった。

 彼は落ち着きがなくイライラしているようだった。ベンチを指さされて通りに背を向けたベンチに二人並んで腰かける。

「仕事は忙しい?」
 なんでもないように亜由美は声をかける。

「仕事ね」
 ふん、と彼は鼻で笑った。

「してると言えばしているし、してないと言えばしてない」
「え?」
 クビになったということだろうか?

「コンサルとか? すぐ騙されんだよな女って。まあ俺ならすぐできるけど。見た目そうっぽくしてたらいくらでも寄ってくるし。金も出すしな。詐欺ってなんだよ。出資だろ? なあ?」

 言っていることが支離滅裂なのも怖い。
 騙される? 詐欺? どういうことなのだろう。

「なにかあったの?」
 言っていることが分からなくて亜由美は彼にそう声をかけた。

「亜由美と別れたあと付き合った女に事業が上手くいってないから金を貸してくれって言ったんだよ。そいつ金持ってたからさ。この前それを返せって言うわけ。返せるわけないじゃん。使ってんのにさ」

「そうだったの……」
「訴えるとか、被害届? とか出すって言うんだぜ。おかしいだろあいつ」
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