遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 事業をしてもいないのに、事業をしているからお金を貸せと言って、さらにそれを返さないとなれば間違いなく詐欺なのだと思うのだが、その言葉は今の彼には通じないような気がした。

「亜由美ならさぁ、分かってくれるって思ったのに、あの男誰? 俺、亜由美って見た目は派手だけど、おとなしくて可愛いなって思ってて。変な男がつけまわしてるなら護ってやんなきゃって思ってたんだよ」
 その結果があの写真で、手紙なのだろうか。

 言葉が通じない怖さとあの一方的な写真や手紙の怖さは共通しているように亜由美は感じた。

 さっきカバンの中で押したボタンは非常通報装置だ。鷹條のスマートフォンと連動していて、非常時には即座に連絡が行くようになっていた。万が一のためにと渡されていたものだった。

 会社を出るとき、それから自宅についたら連絡をすることになっていた。それが途絶えて、亜由美のスマートフォンは電源が落とされている。加えて押された非常通報装置。

 鷹條は適切に対応してくれるはずだ。
 ──落ち着いて到着を待つこと。

 今の亜由美にできるのはその鷹條の言葉を信じて待つだけだ。

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