遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
16.甘えていい?
「手紙とか、書いた?」
 ゆっくりと亜由美は尋ねる。
「書いた。だって、亜由美別れたあと連絡取れなくなったから」

 やはりこの人がストーカーだったのかと亜由美は確信する。

 別れているのだから、連絡など取る必要はないはずなのに、それはきっと通じない。

 言葉がまるで上滑りするような、違う言語を話しているかのような感じに恐怖の気持ちが拭えなかった。

 別れた時は単純にモラハラっぽい感じがして終わりにしたのだけれど、本当はそんなものではなかったのかもしれない。

 他人に迷惑をかけても全く無神経でいられる感覚。それこそが彼の異常性だったのだ。

「俺の気持ち、伝わったかなぁ」

 亜由美は背中がゾクッとした。
 そんなもので気持ちが伝わるわけがないのに。
 怖い、逃げたい……そんな気持ちに押しつぶされそうになっていたときだ。

「すみません」
 制服の警察官がにこやかに彼に話しかけた。

「え? 何?」
 顔を上げた彼は不機嫌に答える。相変わらず他人には横柄な態度だ。

「事件がありまして、パトロールを強化させていただいています。大変お手数なのですが、免許証や身分証などお持ちでしたら拝見させていただけませんか?」

 制服の警察官はあくまでもにこやかに話しかけてくる。
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