遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 亜由美は安心感から今度こそ涙を止めることができなかった。ぽろぽろと両目から涙があふれだす。
 そして自分を抱き締めてくれている鷹條の身体にしがみつくように抱きついた。

「……っ! こわ、怖かった!」
「うん。そうだな」

「でも、信じてたっ! 言われた通りにしたの……っ。ちゃんと落ち着いて話したの。それから要求を……」

「うん。無事でよかった。本当に」
 優しい声でそう言って鷹條は亜由美を抱きしめ返す。

「だって、きっと千智さんが来てくれるって……」
「そうだ。来ただろう?」
「千智さん、大好きっ」
「俺もだよ」

 近くに警察官がいたのにも関わらず、鷹條は亜由美を抱きしめて安心させてくれた。

 抱き合う恋人たちに気をつかって制服の警察官はそっと目線を外す。軽く挨拶をしてその場を離れるのを鷹條は目線で確認していた。
 今は怖がっている恋人が最優先だ。

「また調書も取らないといけないけれど、それは後日でも構わない。今日は家に帰ろうな」
 こくこくっと亜由美は頷く。


 自宅に戻っていつもの空間に触れると、改めて今日起こったことの恐怖がよみがえってくる。場合によってはこの日常に戻れなかったかもしれなかったのだ。

 小刻みに震えて血色を失くす亜由美の肩を鷹條がそっと抱く。

「食事はできそうか?」
 亜由美は首を横に振った。
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