遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「当事者だからダメなんだ。だから亜由美が危ない時に駆け付けられたってのはあったけど。敢えてチームに入れなかったのは、久木(ひさき)さんはこうなることを読んでいたのかもな」

 久木とは昼休みの時に一度だけ会ったきりだけれど、こうして鷹條の口からいろんなことを聞くと本当に仕事のできる人物のようだ。

「久木さんにもお礼を言わなきゃいけないわね……」
 亜由美のつぶやきを聞いて、鷹條がぎゅっと抱きしめてくる。

「どうしたの?」
「俺には?」
(こ、声が拗ねてるっ!)

「拗ねてるの?」
「妬いてる。大人げないよな?」
 そう言って鷹條はお湯を手のひらで掬って、亜由美の肩にかけていた。

 どうしたらいいんだろうか。亜由美に甘えて、拗ねたり妬いたりする恋人が可愛すぎるのだが!

 それで亜由美は理解した。
 普段、鷹條は亜由美に甘えてほしいと言うが、恋人に甘えられることは嬉しくて愛おしさが倍増するものなのだ。きゅんっと胸から愛おしい気持ちが込み上げる。

 湯船の中でバックハグされていた亜由美はくるっと鷹條に向き直った。そして自分からぎゅっと抱きつく。

「千智さん、ありがとう。千智さんに一番感謝してる。私が頑張れたのも千智さんがいてくれたからだもの。千智さん大好き」

 鷹條の顔が赤くなっていたのはお風呂のせいだけではないはずだ。
「そろそろ上がるか? なんかのぼせそうだ」
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