遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 ぎゅうっと鷹條の身体に抱きついて、亜由美は小さな声で聞いてみた。応えるように抱きしめ返される。

「うん。いいよ。無理させたくないし。それより亜由美を安心させるのが最優先」
 ぎゅっと亜由美を抱きしめ直して、鷹條が低い声で囁く。

「ごめんな。本当に怖かったよな」
「怖かったのはそうだけど……」
「ごめん……」

 鷹條は悪くないのに、どうしてこんなに悲しそうな絞り出すような声を出すのだろう。

「千智さんは悪くないよ?」
「そうじゃなくて、俺は本当なら亜由美に欠片も怖い思いをしてほしくない」

 その愛情はとても嬉しいけれど、今、亜由美は鷹條に伝えたいことがあった。

「あのね、千智さん、万が一のことを考えて私にすごくたくさんのことを教えておいてくれてたでしょう? 私、怖かったけど、ずっと教えてもらったことを思い出してたの」

 そうなのだ。
 恐怖で震えていた時も、鷹條を信じるだけで自分を保つことができた。

「ずっと千智さんの愛情をちゃんと感じてて、だから頑張れたのよ。千智さんはちゃんとずうっと護ってくれてたよ?」

 付きっきりで側にいることだけが護ることじゃない。身の守り方を徹底的にレクチャーしてくれていたのだって護ってくれることになる。
 それを亜由美は実感していたのだ。

 鷹條が腕の中の亜由美を見る。亜由美も真っすぐ見返した。いつもキリリとしていて、頼りがいのある鷹條だ。
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