遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 少し前に鷹條がぽそっと「みんなプロポーズってどうしてるんですかね?」と口にしてしまったから、課内は大騒ぎとなっているのだ。

 ちなみに口にした当の本人である鷹條はすでに後悔していた。
(あんなこと、言うんじゃなかったっ!)

 愛妻家と有名な課長がいたから、参考までにちょっと聞きたかっただけなのにこんなお祭り騒ぎになるなんて思わなかった。

 鷹條は悩んでいた。思い出になるプロポーズとはどういうものなのだろう?
 フラッシュモブだの花火だのは論外だ。

「まぁ、王道が一番間違いないと思うぞ」
 課長はにこにこしながら、鷹條にそう声をかけた。

「王道……ですか」
「美味しいレストラン、綺麗な夜景、可愛い花束なんかだな」

 ただ……と真剣な目の課長が鷹條を真っすぐ見てくるので、鷹條もごくりと唾を飲みつつその言葉の続きを緊張しながら待つ。

「間違っても夜景を見ながら指輪を渡すのはやめた方がいい」

 夜景を見ながら指輪?
 どういうことだろうかと鷹條は首を傾げる。

「夜景の見える公園ってどんなところだ?」
「え? 暗いです」

「そうなんだ。暗いんだ。結婚してくださいと真剣な顔をしていても互いの顔はよく分からない上、テンパって指輪なんか落としてみろ。動くな! と言って三十分は探した。嫁さんはよく結婚してくれたと思う」
< 168 / 216 >

この作品をシェア

pagetop