遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 課長は若くして警備部警備二課の課長となった、キャリアのエリートだ。テンパるというのにも驚いたし、指輪を落としたというエピソードには同情した。

「ま、それほどまでに緊張するシーンだということだ」
「落とさない場所にします……」

 もしくは落としても探しやすい場所……。
 これで果たしてプロポーズとして合っているんだろうかとますます鷹條は間違っている気がして仕方ない。

 結局のところ、自分で考えるしかないようだと結論を出して鷹條は席を立った。
「お先に失礼します」
「あ、鷹條くん」
 帰ろうとする鷹條を課長が呼び止めた。

「こういうのもいいと思う」
 そう言ってクリアファイルを鷹條に渡した。

 鷹條はその中身を見る。それは旅行へ行く際に許可をもらうための書類だった。

 通常、旅行や帰省で県外に行く時、警察官は上司に届出をしなければいけない。クリアファイルに入っていたのはそのための申請書だ。

 この申請書を出すのが面倒で旅行にはいかないという警察官も多い。帰省ならば許可が降りないことはないが、旅行の場合は仕事の状況によっては許可が降りないこともあると聞く。
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